映画ファンの皆様、ついにこの日がやってまいりました。2019年6月28日、かねてより世界中で絶賛の嵐を巻き起こしていた話題作『COLD WAR あの歌、2つの心』が日本での公開初日を迎えました。本作のメガホンをとったのは、前作『イーダ』で第87回アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、世界的な名声を確立したポーランドの巨匠、パヴェウ・パヴリコフスキ監督です。待ちに待った新作ということもあり、SNS上では早くも「映像美が凄まじい」「予告編だけで泣ける」といった期待の声が溢れかえっています。
物語の幕開けは、第二次世界大戦の爪痕が残る1949年のポーランド。ピアニストのヴィクトルは、民族合唱舞踊団を結成するため、才能ある若者を探して田舎の村々を巡っています。そこで彼は、とあるオーディションに参加した少女・ズーラと運命的な出会いを果たしました。彼女は美しいだけでなく、どこか危険な香りを漂わせる女性であり、実は実の父親に乱暴されそうになり、自ら手を下してしまったという衝撃的な過去を持っています。
冷戦下のヨーロッパで繰り広げられる、15年の愛の逃避行
執行猶予中という危うい立場にあるズーラですが、その歌声と瞳に魅了されたヴィクトルは、彼女と激しい恋に落ちていきます。しかし、二人の関係は時代の波に翻弄されることになりました。当時のポーランドは社会主義政権下にあり、芸術家であるヴィクトルに対し、プロパガンダのための音楽活動を強要する圧力がかかり始めたのです。自由な音楽を愛する彼は絶望し、ズーラを誘って西側への亡命を決意します。二人はベルリンでの合流を約束しますが、約束の場所に彼女が現れることはありませんでした。
本作の大きな特徴は、なんといっても全編を通して貫かれた「モノクローム(白黒)」の映像美です。現代において、あえて色彩を排除した白黒映画を撮ることは勇気がいる決断かもしれません。しかし、パヴリコフスキ監督の手腕にかかれば、画面から色が消えることで、逆に登場人物たちの感情が鮮烈に浮かび上がってくるのです。余計な情報が削ぎ落とされた画面は、観る者の視線を二人の表情や仕草に一点集中させ、癒しがたい妄執や純粋な愛のほとばしりを、痛いほどに伝えてくれます。
「語らない」ことで生まれる、圧倒的な余韻と真実
また、この映画の構成は非常にユニークで、一種の「発明」とも言えるでしょう。物語は15年という長い歳月を描いていますが、そのすべてを説明的に見せることはしません。あえて時間の経過を断片的に切り取り、観客にその「間」を想像させる手法をとっています。この大胆な省略によって生まれた「余白」にこそ、語られなかった二人の苦悩や真実が隠されているように感じられるのです。これは、すべてをセリフで説明しがちな昨今の映画とは一線を画す、大人のための映画体験と言えるのではないでしょうか。
私自身、試写で拝見した際には、ラスト10分の展開に息を呑み、座席から立ち上がれないほどの衝撃を受けました。特にズーラが放つ「ここから連れだして」というセリフには、彼女の魂の叫びが凝縮されており、冒頭に登場した荒れ果てた寺院へと回帰していく結末は、あまりにも美しく、切ないものでした。単なるラブストーリーという枠を超え、運命そのものを映像化したかのような90分間は、間違いなく今年ベスト級の傑作です。
SNS上でも、先行して鑑賞した海外のファンや評論家から「すべてのショットが絵画のようだ」「悲劇的なのに、これほど美しい愛を見たことがない」といった絶賛の声が止まりません。冷戦という分断の時代に、国境も時間も超えて惹かれ合った二人の姿は、現代を生きる私たちの心にも深く突き刺さることでしょう。上映時間は1時間28分。東京・有楽町のヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、本日2019年6月28日より公開されています。ぜひ劇場の暗闇で、この圧倒的な愛の物語に溺れてみてください。
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