2019年6月、日本のビジネス界に激震が走りました。これまでの株主総会といえば、会社側の提案に株主が拍手で賛成する「シャンシャン総会」が一般的でしたが、今年は全く様相が異なります。まさに歴史に刻まれる「対話と緊張の季節」となったと言えるでしょう。SNS上でも連日、著名企業のトップ人事や不祥事に対する厳しいコメントが飛び交い、経済ニュースがトレンド入りするなど、これまでにない関心の高さを感じています。今回は、2019年6月28日現在までの動きを振り返り、これが私たちの生活にどう関わるのかを紐解きます。
今年の最大の特徴は、経営陣が提案した人事案に対し、株主が明確に「NO」を突きつけ始めたことです。象徴的だったのが野村ホールディングスでしょう。情報漏洩問題の影響もあり、トップへの賛成率はわずか62%にとどまりました。これは、いわば経営者に対する「通信簿」です。これまでなら考えられない低い点数であり、再任されたとはいえ、非常に厳しい立場に追い込まれたと言えます。経営者はこの数字を真摯に受け止め、なぜ株主が怒っているのかを分析し、信頼回復に努めなければなりません。
LIXILに見る「株主提案」の威力と劇的な勝利
さらに驚くべきは、株主側から議題を出す「株主提案」が過去最高の50社を超えたことです。中でもLIXILグループの騒動は、ドラマさながらの展開を見せました。前の経営トップが、会社側の方針に反旗を翻し、自らを含む取締役候補を株主提案として提出。そしてなんと、会社側の提案に競り勝ってしまったのです。大企業において、トップ人事に株主が直接介入し、経営権を奪取するような事態は前代未聞です。ネット上でも「プロキシーファイト(委任状争奪戦)が日本でこれほど熱くなるとは」といった驚きの声が多く上がりました。
こうした変化の背景には、「機関投資家」の存在があります。機関投資家とは、顧客から預かった巨額の資金を運用する生命保険会社や信託銀行などの「プロの投資家」のことです。彼らはこれまで「物言わぬ株主」であることが多かったのですが、近年はスチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)の浸透により、投資先企業の稼ぐ力を高めるために、厳しく注文をつけるようになっています。LIXILの件も、こうしたプロたちが「どちらの経営者が企業価値を高めるか」をシビアに判断した結果と言えるでしょう。
日産のガバナンス改革と「形式」の限界
一方、カルロス・ゴーン元会長の逮捕で揺れた日産自動車も大きな転換点を迎えました。今回の総会で、彼らは「指名委員会等設置会社」への移行を決めました。これは少し難しい言葉ですが、簡単に言えば「経営(執行)」と「監督」を明確に分け、社外取締役が強い権限を持つ委員会を作ってトップの人事や報酬を決める仕組みのことです。透明性を高めるための欧米流のシステムであり、この迅速な対応自体は評価できるものです。
しかし、私はここで警鐘を鳴らしたいと思います。「形」を整えたからといって、すぐに企業統治(コーポレート・ガバナンス)が機能するわけではないからです。どんなに立派な箱を作っても、その中にいる人間がしっかりとトップを監視し、ダメなものはダメと言えなければ意味がありません。日産に限らず、多くの日本企業が「形だけのガバナンス」に陥らないか、私たちメディアや株主は今後も厳しい目で注視していく必要があります。
「老後2000万円問題」を救うのは企業の成長だ
さて、今月は「老後資金2000万円不足問題」が大きな話題となりました。実は、この株主総会の激変と年金問題は無関係ではありません。私たちの年金積立金の多くは、株式市場で運用されているからです。つまり、株主が経営陣にプレッシャーをかけ、企業が緊張感を持って経営を行い、利益を出して株価が上がれば、巡り巡って私たちの年金資産も増えることになるのです。「株主総会なんて自分には関係ない」と思わず、自分のお金が増えるかどうかの瀬戸際だと捉えてみてください。
もちろん、株主側もただ闇雲に反対すれば良いわけではありません。議決権行使助言会社の言いなりになって、形式的な基準だけで「NO」を突きつけるのは無責任です。しかし、2019年6月28日現在、日本企業に緊張感が戻ってきたことは歓迎すべき変化です。企業と株主が真剣勝負で対話し、健全な成長を目指すことこそが、日本経済の底上げ、ひいては私たちの将来の安心につながる道だと私は確信しています。