韓国の移動事情を大きく変えた革新的なサービスが、あまりにも突然の幕引きを迎えることになりました。スマートフォンアプリで手軽に車を呼べる「配車サービス」として、現地で絶大な支持を集めていた「タダ」が、2020年4月10日をもって営業を終了します。会員数が170万人を超えるほど親しまれていた最中に決定したこの事業停止は、韓国国内だけでなく世界中の経済界に大きな衝撃を与えているところです。今回は、この急転直下の撤退劇の裏側にある複雑な背景に迫ります。
合法判決からわずか2週間での大逆転劇
このサービスが追い込まれた経緯は、まるでドラマのような二転三転の展開を見せました。日本と同様に韓国でも、通常の自家用車を使った有償の旅客運送は原則として認められていません。しかし、独自のアイデアで急成長を目指す「スタートアップ」である運営会社は、法律の例外規定に注目したのです。11人乗り以上15人乗り以下のレンタカーであれば、運転手の紹介業務が認められるという条文を根拠にして、最大11人乗りのミニバンを使用した独自の快適な移動手段を提供し始めました。
既存のタクシー業界は、この新しい動きに対して猛烈な反対運動を展開していきます。乗客を奪われることを恐れた業界団体は、運営会社の社長らを違法だとして告外出し、大規模なデモを繰り返しました。事態を受けた検察は、2019年10月28日に社長らを起訴するに至ります。ところが、2020年2月19日にソウル中央地方裁判所が出した結論は、驚くべきことに「無罪」という合法の太鼓判でした。司法は新たなビジネスモデルを正当なものとして受け入れたのです。
しかし、勝ち取ったはずの未来は一瞬にして崩れ去ることになります。裁判所の判決からわずか2週間ほどが経過した2020年3月6日、韓国の国会がいわゆる「タダ禁止法」と呼ばれる法律の改正案を可決したためです。司法が合法と認めたにもかかわらず、立法府がその抜け道を完全に塞ぐ新たなルールを急造するという極めて異例の事態が発生しました。この法改正により、実質的にサービスを継続することが不可能になってしまったと言えるでしょう。[/p>
選挙を前に揺らいだ文政権の姿勢と起業家の無念
なぜ、このような強硬な法改正がこれほどスピーディーに進められたのでしょうか。その背景には、2020年4月15日に控えている総選挙という政治的な思惑が色濃く影を落としています。多くの票を持つタクシー業界の意向を無視できない与党議員たちが、業界の利益を優先した結果であると指摘せざるを得ません。これまで新産業育成を掲げてきた文在寅大統領も、今回の事態に対しては沈黙を貫いており、その方針の矛盾に対する失望が国内で広がっているのが現状です。[/p>
今回の政治的な決定により、韓国のネットベンチャー界を牽引してきた偉大なリーダーが表舞台を去る事態となりました。運営会社の親会社で社長を務めていた李在雄氏は、2020年3月13日に自身のSNS上で辞任を発表しています。かつてポータルサイトを創業し、その後は創業間もない企業を支える「エンジェル投資家」として尽力してきた同氏ですが、今回は「役割を果たせなかった」と深い自責の念を吐露しました。有能な起業家をここまで追い詰めた政治の責任は重いです。[/p>
SNSで渦巻く悲痛な声と未来への警鐘
インターネット上では、この突然の決定に対してユーザーからの悲痛な叫びや怒りの声が数多く飛び交っています。「一度体験したら既存のタクシーには戻れないほど快適だったのに残念だ」というサービスの質を惜しむ意見が溢れる一方、「政治が目先の票のために未来の技術を潰した」という厳しい政権批判も見られました。これまでの古い法律や制度によって守られてきた特定の業界の利益、いわゆる「既得権益」を優先した政治の姿勢に対し、多くの若者が失望を感じているようです。[/p>
筆者といたしましても、今回の結末は韓国経済のみならず、これからの世界のイノベーションのあり方に重大な禍根を残すものと考えます。消費者が選び、利便性を認めた最先端のビジネスを、政治的な忖度によって排除する行為は、国全体の成長を自ら止めるに等しい暴挙です。目先の選挙に囚われて革新の芽を摘んでしまえば、優秀な人材や海外からの投資は瞬く間に離れていってしまうでしょう。今回の出来事は、既得権益の打破がいかに難しいかを物語る悲劇的な事例に違いありません。
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