2019年6月下旬、日本株市場における海外投資家の動向に大きな変化が見られます。これまで市場全体を押し上げてきた海外勢が、大型の主力株への投資を控える一方、「局地戦」と呼ばれる特定の分野、具体的には東京証券取引所第一部(東証1部)への昇格が期待される銘柄や新規上場(IPO)予備軍の中小型株へ狙いを絞り込んでいるのです。この動きは、日本企業に対する中長期的な成長への不安の表れではないかと懸念されています。
SMBC日興証券の山田誠氏によると、「東証1部昇格予備軍」や未公開株(プライベート・エクイティ)で利益を獲得しようとする海外ヘッジファンドが、増加している状況です。例えば、通信サービスのアイ・ピー・エスや居酒屋チェーンの一家ダイニングプロジェクトといった銘柄は、5月末を起点として1割を超える上昇率を見せています。これらの企業は、株主数や時価総額、立会外分売の実施状況など、東証が定める昇格基準に基づいて、市場関係者から「昇格予備軍」と目されているのです。なお、**立会外分売(たちあいがいぶんばい)**とは、既存の株主が所有する株式を、取引所の通常の取引時間外で不特定多数の投資家へ分売する行為を指し、東証1部昇格の条件である「株主数」を増やす手段として利用されます。
東証1部へ昇格すると、東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄に組み入れられるため、TOPIXに連動する運用を行う機関投資家(インデックスファンド)の購入対象となります。この組み入れに伴う需要を見越した短期的な値上がり益を目的として、海外勢は積極的に「昇格期待銘柄」を物色しているのです。実際に2019年6月に入って昇格承認が発表された銘柄の多くは、株価が大きく上昇しました。例えばニーズウェルは5月末比で33.6%高、社宅サービスやアイルも30.5%高と、日経平均の3.6%高を大きく凌駕する勢いを示しており、短期的な利益を追求する海外勢の戦略が功を奏していると言えるでしょう。
また、市場では東芝の東証1部復帰の可能性についても関心が集まっています。この観測が浮上した背景には、東証2部のダイヤモンドエレクトリックホールディングスが、その孫会社である1部上場の田淵電機の株式を取得したことがきっかけです。これを受け、ある証券会社には海外投資家から「東芝も1部復帰できるのではないか」といった問い合わせが増加しているとのことです。
急増する「ユニコーン」への関心と市場のダイナミズム低下
「局地戦」のもう一つの焦点は、人工知能(AI)やバイオテクノロジーなど、成長性の高い分野の未上場企業です。みずほ証券が2019年3月に開催した中小型株の投資カンファレンスでは、時価総額10億ドル以上となる未上場企業、いわゆる「ユニコーン」級の企業を含む14社が参加し、前年の5社から急増しました。コーポレートアクセス部の五十幡正博部長は、「新規上場(IPO)候補企業に対する投資家の関心が高いことを反映している」と述べています。これは、未公開株の段階から投資することで、将来的に大きなリターンを得ようとする海外勢の貪欲な姿勢の現れでしょう。
海外勢がこのように「局地戦」へ軸足を移す大きな原因として、日本市場全体のダイナミズム、すなわち活気の低下が挙げられます。モーニングスター・ダイレクトの調査によれば、2018年4月から2019年5月にかけて、日本株のアクティブ運用から約7,900億円もの資金が流出しました。SMBC日興証券の山田氏は、市場の流動性(取引の活発さ)が低下しているため、投資家がリスクを取りにくくなっており、通常のアクティブ運用(市場平均以上の収益を目指す運用手法)では超過収益を得ることが困難になっていると指摘しています。つまり、大型株を組み込んだ従来の運用では稼げないため、短期的なカタリスト(株価上昇のきっかけ)を持つ中小型株に活路を見出していると解釈できます。
さらに、「世界の中で出遅れている日本株を買う」という機運も、現在では乏しいと言わざるを得ません。世界的な金融緩和への期待感から、他国では株価が底上げされている状況ですが、一方で円高懸念がくすぶる日本株には、資金が流入しにくい状況が続いています。国内証券のトレーダーからは、中長期的な視点で見ても、人口減少や海外企業との競争力を考慮すると、「数十年後に大きく成長するイメージを持てる日本企業は、ソフトバンクグループぐらいではないか」といった厳しい意見も少なくありません。
私の意見としては、海外投資家による「局地戦」への傾倒は、日本株市場が抱える成長の停滞という根本的な課題を映し出していると感じています。短期的な値上がり益を狙った投資は、市場に一時的な活気をもたらすかもしれませんが、持続的な株価の上昇には、やはり企業による力強い成長ストーリーが不可欠でしょう。企業側は、東証1部昇格といった短期的な目標だけでなく、AIやバイオなど、未来の成長を牽引する分野への積極的な投資と、その明確な戦略を海外投資家へ示していく必要があるのではないでしょうか。
東京証券取引所が2019年6月27日に発表した投資部門別売買動向でも、海外投資家は現物株を7週連続で売り越しています。2019年度に入り、4月第4週時点では1.6兆円にまで膨らんでいた累計買越額は、約6,800億円にまで縮小してしまいました。ピクテ投信投資顧問の松元浩氏は、「週末の米中首脳会談の結果が事前予想通りであったとしても、景気敏感株が多い日本株に対する手控えムードは続くだろう」とみており、海外勢の日本株離れが今後も続く懸念は拭い去れません。SNS上でも、「海外勢が日本株を買わないのは、企業に成長期待が持てないからでは」「短期の昇格狙いじゃなくて、もっと長期で持てる銘柄が欲しい」といった、日本企業の成長力に対する懸念や、短期志向の投資への複雑な思いをにじませる反応が多く見られました。
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