小売業とフィンテック事業を柱とする丸井グループでは、2008年から本格的な働き方改革に着手しています。その目的は、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮し、活躍できる環境を提供することにほかなりません。すべての人々が幸せを実感できる豊かな社会の実現を目指し、同社は2016年に「インクルージョン(包摂)」という理念に基づき、4つの重点テーマを策定しました。その中でも特に重視されているのが、「社員一人ひとりが活躍できる場」を提供する「ワーキング・インクルージョン」なのです。これは、年齢、性別、キャリアにかかわらず、誰もが仕事を通じて自己実現できるような、多様性を尊重する職場環境を築くことを意味しています。
この「ワーキング・インクルージョン」を具体的に推進するために、丸井グループは独自のKPI(重要業績評価指標)を設定しています。その一つが「グループ会社間異動率」であり、もう一つが「女性イキイキ指数」です。グループ会社間異動率は、2013年4月以降に12のグループ会社間で異動を経験した社員の累積割合を示すものです。これは、いわゆる「職種変更」を促すことによって、社員が新たな視点やスキルを獲得し、革新的な力を身につけることを狙っています。実際、2018年4月時点では、役員や管理職を除く社員の約43パーセントが異動を経験している状況です。
丸井グループの全社員は純粋持ち株会社に在籍しており、入社後はおよそ2〜3年間、店舗での接客業務を経験することが基本とされています。これは、多様な顧客ニーズを肌で感じ、「他者の視点」に立って共感する力を養うためです。その後、クレジットカードを中心とするフィンテック事業やウェブ販売、不動産賃貸など、12のグループ会社へと異動します。この多岐にわたる事業を経験することで、社員は多角的なものの見方を身につけ、イノベーションを生み出す土壌が育まれることでしょう。異動を経験した社員へのアンケートでは、実に約86パーセントが異動後に自身の成長を実感しているという結果が出ており、社内にも異動によってもたらされる「多様な視点」が共有されるメリットは非常に大きいと考えられます。
もう一つの独自指標である「女性イキイキ指数」は、女性が活躍する機会を増やすためのプロセスを示すKPIとして、2014年3月期から導入されています。これは、一足飛びに女性管理職を増やすだけでなく、その前段階である社員の意識改革や企業風土の醸成が不可欠であるという考えに基づいています。具体的には、「女性活躍浸透度」「女性の上位職志向」などの3つの数値と、女性の活躍を定量的に示す4つの数値で構成されています。
この取り組みの結果、「女性活躍浸透度」(社員アンケートで「女性活躍の重要性を理解できた」と答えた割合)は、2014年3月期の37パーセントから、2018年3月期には97パーセントへと劇的に向上しました。また、「女性の上位職志向」(現在より上位職を目指したいと答えた割合)も、同じ期間で41パーセントから67パーセントに上昇しており、女性社員のキャリア意欲が高まっていることが明確にうかがえます。ワークライフバランスを実現し、女性がよりイキイキと働くためには、男性社員の意識改革も欠かせません。そのため、この指数には「男性社員の育休取得率」も反映されており、2014年3月期には14パーセントだった取得率が、上司が取得を奨励した結果、2018年3月期には対象社員のほぼ全員が取得するという目覚ましい変化を遂げたのです。
女性の活躍を定量的に示す4つの数値も着実に伸びています。例えば、育児休業から短時間勤務を経てフルタイム勤務に復帰した女性社員の比率を示す「育児フルタイム復帰率」は、36パーセントから63パーセントへとアップしました。さらに、女性のリーダー数や管理職数も増加しており、女性管理職比率は7パーセントから11パーセントに上昇しています。これは、女性の潜在能力を引き出し、キャリア形成を支援する同社の取り組みが功を奏している証しと言えるでしょう。
女性イキイキ指数をさらに高めるため、同社では男性社員への研修と、女性社員自身のマインド向上を促す取り組みを両輪で進めています。管理職を対象とした「アンコンシャスバイアス・プログラム」では、無意識の偏見が人材育成や評価に与える影響を学び、それを是正する方法を習得しています。無意識の偏見とは、人が気づかずに持つ、性別や年齢、人種などに基づく固定観念や先入観のことです。これにより、公平な判断や多様性を活かす姿勢が培われるでしょう。また、女性社員に対しては、社外取締役の岡島悦子氏が「キャリアは自分で築くものであり、ライフイベントがあっても仕事を続ける意義がある」と語るなど、キャリアに対する前向きな意識を醸成する階層別共有会も実施されているのです。
こうした全社的な改革の結果、同社グループの社員一人あたり月間平均残業時間は、2008年3月期の10.9時間から、2018年3月期にはわずか3.5時間へと大幅に短縮されました。さらに、2016年に始動した「健康経営推進プロジェクト」では、2050年には「わたし、健康」と言える人を100パーセントにするという壮大なビジョンを掲げています。丸井グループの推進するダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、社員の成長、企業の革新、そして豊かな社会の実現という、三方良しの好循環を生み出す先進的な事例として、多くの企業にとって大きな示唆を与えていると考えられます。
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