【なぜ日本はQRコードに熱狂するのか】「100億円還元」合戦の裏側。利便性を捨ててまで事業者が目指す「決済データ」という宝の山

近年、スマートフォン決済サービス、特にQRコード決済が日本で最も注目されるキーワードの一つとなりました。2018年には、ヤフーとソフトバンクが出資するPayPayが「100億円還元」で一躍話題をさらい、ほぼ同時期にLINE Payが、今年に入ってからはみずほ銀行のJ-Coin Pay、メルカリのメルペイなどが参入するなど、競争は激化していました。NTTドコモの「d払い」やKDDIの「au PAY」といった携帯電話事業者も加わり、まさにキャンペーン合戦が繰り広げられていたのです。

しかし、実際にQRコード決済を使った方ならお分かりのように、アプリを起動する必要があるなど、Suicaなどの電子マネーに比べると、利便性や技術面では「後退している」とも言える側面があります。にもかかわらず、なぜ各社が競ってこの市場に巨額の資金を投じているのでしょうか。その答えは、決済という行為に伴う**「隠れたコスト」と「データの価値」**にあります。

政府がキャッシュレス化を推進する背景には、現金が持つ隠れたコストがあります。紙幣の印刷、輸送、警備、ATMネットワークの運用など、現金流通には多大な社会的コストが発生します。一方で、従来のキャッシュレスの代表格であるクレジットカードや電子マネーは、これらのコストを解決しますが、今度は店舗側に**高額な決済手数料(一般的に3~7%)**や、読み取り機器の導入コストという新たな負担を生んでいました。たとえば、売上の全てがクレジットカードだと、利益が半減してしまう可能性もあるのです。

ここでQRコード決済が仕掛けた奇策が、**「決済手数料ゼロ(またはゼロに近い水準)」という戦略です。中国のWeChat PayやAlipayが市場の9割を占めたのも、この低手数料が決め手でした。では、なぜ企業は手数料を放棄できるのでしょうか。その秘訣こそが、決済を通じて取得できる「データ」**の活用です。QRコード決済を利用するには、個人情報と連携した登録が必須となります。

コラムニストとしての私の意見ですが、このQRコード決済の戦いの本質は、決済そのもので儲けることではなく、決済を通じて得られる膨大な個人情報と購買履歴をいかに活用するかという点にあります。このデータを分析すれば、「チョコレートをよく買うユーザー」を特定でき、メーカーに効果的な広告を打つことで、決済手数料以上の利益を得ることが可能になるのです。このデータ活用モデルは、資金力のある企業でなければ成り立ちません。

今の日本のように多くの事業者がデータをそれぞれ持っている状況は非効率的であり、将来的にプライバシーに配慮した上でのデータ相互活用プラットフォームの必要性が出てくるでしょう。そして、決済手段としてQRコードを使う必然性はなく、将来的には顔認証など、別の技術へと移行する可能性もあります。この2019年の「100億円還元合戦」は、日本の消費者にキャッシュレスという習慣を植え付け、データがビジネスの主戦場となる未来を決定づけた、重要な転換点だったと言えるでしょう。

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