「ぼろぼろになった、この大切な一冊を、なんとかしてほしい」――そんな切実な願いに応える全国的にも珍しいサービスが、静岡県浜松市にある市立浜北図書館で行われています。その名も「本の保健室」。ここでは、傷んでしまった利用者の私物の本を丁寧に診察し、治療を施して、再び読める状態によみがえらせています。この心温まる取り組みを支えているのが、スタッフの大城昭和さん(71)をはじめとする専門のチームなのです。
たとえば、利用者の方が恐る恐るカバンから取り出した絵本は、背表紙が外れかかり、ページがバラバラになりそうな状態です。破れた部分を直すために貼られたセロハンテープが茶色く変色している箇所も散見され、その傷み具合はかなりのものと言えるでしょう。しかし、大城さんは優しく微笑みながら、「これは直しがいがありますね」と前向きに応じます。持ち込まれた本の相談内容や、必要とされる作業を細かく「カルテ」に記録し、どのような方法で修繕を行うかを丁寧に説明する姿は、まさに“本の専門医”そのものです。
📘「自分の本も直してほしい」から誕生した感動のサービス
浜北図書館がこの「本の保健室」をスタートさせたのは、2018年5月のことです。実は、このサービスが生まれたきっかけは、利用者からの熱い要望でした。2015年に図書館が本の補修作業を一般に公開したところ、「自分の持っている本も直してほしい」という声が多く寄せられたのです。これを受け、図書館の指定管理者である遠鉄アシスト(浜松市)が、利用者へのサービス向上の一環として実現させました。本を大切に想う人々の気持ちに、図書館側が誠実に応じた結果と言えるでしょう。
修繕にかかる期間は、本の状態にもよりますが、おおよそ2週間から1カ月ほどです。料金は1冊一律100円という、驚くほど良心的な設定です。サービス開始以来、絵本や図鑑など、すでに50冊を超える本が補修され、思い出の詰まった本たちが新たな命を吹き込まれています。持ち込まれる本の中には、もし図書館の蔵書であれば除籍対象になってしまうほど、ひどく傷んだものも少なくありません。
それでも大城さんは、「どう直したら良いかあれこれ考えて、それがうまくいった時が一番楽しい」と語ります。ときには、図書館での役割を終えた他の本から使えるパーツを取り出し活用したり、作業効率を高めるための専用工具を自ら開発したりと、長年の経験と創意工夫を凝らして補修に取り組んでいらっしゃるのです。
💡定年前から培った補修歴10年の匠の技
大城さんは、もともと市役所の職員でしたが、定年退職の2年前から図書館に勤務し始めました。本の補修歴は、すでに10年ほどに及びます。日々の蔵書の配架などの業務と並行して、補修の技術を磨いてきたそうです。子どもの頃から木の実で鉄砲を手作りするなど、「何かを作ったり、細かい作業をしたりするのが好きだった」というご自身の性質が、現在の「本の保健室」の活動に活かされているのでしょう。繊細で緻密な作業は、まさに匠の技です。
実際に補修が完了した本を受け取った利用者からは、喜びの声が絶えません。たとえば、市内に住む会社員の寺田敬さん(38)は、補修を終えた動物の写真集を手に取り、思わず顔をほころばせていました。この写真集は、寺田さんが35年ほど前に動物園で購入したもので、「もう買いたくても買えない大切な本なので、本当にうれしい。また、これで子どもと一緒に読めます」と、目を輝かせながら語っています。このような「思い出」や「愛着」が詰まった本を預かる大城さんは、「責任を感じますね」と、その想いの重さをかみしめています。
🗣️SNSでも共感の嵐!「本の保健室」が広げる地域の本への愛
この「本の保健室」の活動は、SNSでも大きな反響を呼んでいます。「お金の問題じゃなく、思い出が詰まった本が蘇るのが素晴らしい」「こういうサービスが全国に広まってほしい」「100円で直してくれるなんて、愛情がすごい」といった、共感と称賛の声が多く見られます。多くの人々が、単なる「モノ」としての本ではなく、「思い出」や「歴史」を内包する本という存在を、心から大切にしたいと考えていることがわかります。
大城さんは、ご自身の補修技術を地域に広めることにも積極的です。すでに小学校の図書館担当者向けに、本の補修の講習を行った経験もお持ちです。「地域全体で本を大切にしてもらえるようになれば、こんなにうれしいことはありません」と、その想いを語ってくれました。最近では、幼稚園のボランティアなどからも問い合わせが寄せられており、要望があれば、技術指導や作業見学といったイベントの開催も検討していく方針です。古書修理の技術を地域に還元し、本への愛情を育む「本の保健室」の取り組みは、2019年6月29日現在、ますます注目を集めています。
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