2019年7月2日、日本の小売業界に大きな動きがありました。大手コンビニエンスストアチェーンであるセブン―イレブン・ジャパンとファミリーマートが、満を持して独自のスマートフォン決済サービスをスタートさせたのです。この動きの背景には、消費者の購買データを詳細に分析し、個々の利用者に合わせた割引券の発行など、きめ細やかな販売促進策を展開したいという強い狙いがあります。コンビニエンスストア(コンビニ)は、日々の生活に密着した店舗網を持つことから、この独自のスマホ決済の導入は、今後のキャッシュレス市場の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めているでしょう。
セブン―イレブン・ジャパンがグループ全体で展開する「セブンペイ」と、ファミリーマートの「ファミペイ」は、サービス開始初日の2019年7月1日から、消費者の高い関心を集めました。しかし、アクセスが集中した影響で、どちらのサービスでも利用登録が遅れるといったシステム上のトラブルが発生したと報じられています。この反響の大きさは、世間のコンビニ大手による決済サービス参戦への期待の高さを表していると言えるでしょう。各社は、アプリで利用登録した後、レジで現金をチャージするなどして利用する仕組みとなっており、支払い時にはバーコードを店員に読み取ってもらう形式です。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、全国約2万1千店のセブン‐イレブン全店に「セブンペイ」を導入しました。同社の永松文彦社長は、サービス開始と同日に、クレジットカードや電子マネーを含むキャッシュレス決済の比率を、現状の35パーセントから「2021年度末までに50パーセントまで引き上げたい」と目標を表明しました。一方、ファミリーマートの「ファミペイ」は、バーコードを一度読み込むだけで、ポイントカードやクーポンの提示までが完了するという利便性の高さが特徴です。こちらは全国約1万6千店で利用可能となっています。
コンビニ各社が自前のスマホ決済サービスに踏み切る最大の理由は、販売戦略の強化です。他社のサービスを利用していた消費者を自社サービスへ誘導できれば、より多くの購買データを集められるようになります。このデータの量が増えるほど、個人の消費動向を正確に把握し、最適な特典を発行することで、販売促進の効果を劇的に高められると見込んでいるのです。例えばセブンは、今後クーポン付与などに年間で約500億円を投じる計画を立てており、この分野への本気度がうかがえます。
しかし、コンビニ側には、この新たな競争への参加を促す、別の切実な理由もあります。実は、コンビニではすでにLINEの「LINEペイ」やソフトバンク・ヤフーの「ペイペイ」といったIT企業系のスマホ決済サービスが利用できますが、そのたびに、原則としてIT企業へ一定の手数料を支払う必要がありました。さらに、2019年10月からの消費税増税に伴い、政府による4千億円規模のポイント還元策が控えています。この状況で、「スマホ決済の利用が確実に急増し、このままでは手数料の負担が大きく膨らむ」という懸念が、コンビニ関係者の間から上がっていたのです。つまり、手数料という資金の外部流出を防ぐことも、自社決済サービス開発の大きな動機となっています。
また、コンビニ側は、キャンペーンの実施において、取引先の食品メーカーや日用品メーカーが協力者となってくれることも期待しています。現在も販売奨励金を受け取っているように、スマホ決済を通じた販売促進活動でも、メーカー側の協力を求めていくことになるでしょう。消費者にとっては、店頭での支払い方法の選択肢が広がるのは喜ばしいことです。ただ一方で、スマホ決済はアプリを立ち上げて店員に見せる手間がかかるという声もあり、利便性向上の余地はまだあるでしょう。
乱立するスマホ決済市場の行方とコンビニの可能性
IT企業主導で乱立するスマホ決済サービス市場では、すでに競争が激化し、合従連衡、すなわち複数の企業が手を組む動きが始まっています。例えば、LINEとメルカリが提携を結んだほか、楽天は電子マネーの分野でJR東日本との協業を発表するなど、業界再編の兆しが見られます。私は、今回のセブンとファミマの参入が、この業界の競争を一層加速させ、サービス間の提携を促す「台風の目」となるのではないかと考えています。
今後、セブンとファミマに続いて、ライバルであるローソンがどのような独自のサービスを打ち出すのかが大きな焦点となるでしょう。コンビニは、消費者の生活と深く結びついた接点、すなわち顧客接点を多数持っています。それゆえ、コンビニを軸とした新たなサービス連合が誕生し、IT企業や交通系、金融系といった異業種を巻き込んだ大きな提携が生まれる可能性も十分にあるのではないでしょうか。
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