2019年7月2日、金融庁の金融審議会が公表した「高齢社会における資産形成・管理」と題する報告書が、国会を巻き込む大騒動を巻き起こしました。この報告書は、平均的な高齢夫婦の無職世帯では、公的年金収入だけでは生活費が月に約5万円不足し、30年間で約2000万円が不足する可能性があると試算したことが大きな注目を集めたのです。野党からは「無責任だ」と猛烈な批判が飛び出し、麻生太郎金融担当大臣が報告書を受け取らない事態にまで発展しました。
しかし、この報告書の本質は、老後の生活資金準備の必要性を訴えた「力作」と評価すべきではないでしょうか。日本は社会主義国ではありませんから、政府が国民の老後の生活すべてを保障する仕組みにはなっていないことは、いまさら改めて言うまでもないでしょう。老後の生活資金は、国民の自己責任に任せる部分を強制貯蓄として制度化した「公的年金制度」と、国民一人ひとりの「自助努力」による貯蓄でまかなうことになるのが基本です。今回の「月約5万円の不足」という試算は、まさにその「自助努力」で補うべき金額の目安を示したものにほかなりません。
この2000万円という数字はあくまで一つの推計であり、高齢者の家計状況は個人差が極めて大きいため、すべての高齢者に当てはまる「平均像」は実在しないかもしれません。それでも、老後の生活に必要な資金の「相場観」を把握し、人生の早い段階から資産形成に取り組む重要性を認識するための有用なデータであることは間違いありません。特に、現在の日本では、長期間にわたる景気拡張が伝えられていても、国民の生活環境はかえって悪化しているという厳しい現実があるからです。
報告書が引用している総務省の「全国消費実態調査」では、35歳から64歳層の世帯主の月収が、2014年時点ではピークだった1994年の約80%にまで低下していることが示されています。また、老後の重要な資金源となる退職金についても、制度を設けている企業が減少し、給付額もピーク時を30%から40%も下回る1700万円から2000万円程度になっている実情も浮き彫りになりました。企業収益はバブル崩壊のショックから立ち直ったにもかかわらず、家計は「失われた20年」から抜け出せていない状況が続いていたのです。
私たち編集部は、この報告書が示す老後資金の不足額を巡る議論は、国民に現実を直視させ、資産形成という**「金融リテラシー」(お金に関する知識や判断力のこと)を向上させるための重要な警鐘だと考えます。今後、日本の高齢化はさらに加速し、医療費や介護費も膨らんでいくことが予想されます。このような時代において、公的年金だけでは生活が成り立たない可能性を明確に示し、国民に自助努力による老後生活への準備を促した今回の報告書は、「遅すぎた」感は否めないものの、非難されるべき内容ではないと強く主張いたします。
SNS上では、「政府が年金制度の破綻を認めたようなものだ」といった厳しい意見や、「やはり自分で備えるしかない」と資産運用への関心を高める反応など、賛否両論の大きな反響がありました。この波紋を機に、老後資金の準備について真剣に向き合う人が増えることを期待してやみません。まずは、退職金や年金以外の資金をどのように形成していくか、「iDeCo」(個人型確定拠出年金)や「NISA」**(少額投資非課税制度)といった優遇税制のある制度の活用を含めて、具体的な計画を立て始めることが肝要でしょう。
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