令和の時代が幕を開け、日本酒業界にも新しい風が吹き始めています。2019年5月、全国の酒蔵がその年の出来栄えを競う「全国新酒鑑評会」で、宮城県石巻市の老舗・平孝酒造が醸す「日高見(ひたかみ)」が見事に金賞を受賞しました。魚介類に合うキレの良いお酒として、寿司店や居酒屋で絶大な人気を誇るこの銘柄ですが、その美味しさの裏側には、伝統を守るためにあえて「変える」ことを選んだ、ある蔵元の壮絶な覚悟がありました。
平孝酒造を率いる平井孝浩社長は、東日本大震災で甚大な被害を受けた蔵を立て直すにあたり、「ただの復興ではなく、進化した酒造りを目指す」と宣言しました。その言葉通り、この歴史ある蔵では今、驚くべき現場改革が進められています。それは、かつての職人の勘と経験に頼るスタイルから、データと最新技術を駆使した「社員による酒造り」への劇的な転換です。
「杜氏」に頼らない?社員が醸す新しい時代
そもそも日本酒造りといえば、「杜氏(とうじ)」と呼ばれる熟練の職人集団が冬の間だけ蔵に住み込んで酒を仕込むのが一般的でした。しかし、高齢化によりそのスタイルを維持するのは年々難しくなっています。平孝酒造では15年前から大卒の新人を採用し、社員自らが酒造りを学ぶ体制へとシフトしてきました。
その流れを加速させたのが、2018年11月に導入された最新鋭の機械たちです。特に注目すべきは、酒造りの命とも言える「洗米(せんまい)」の自動化でしょう。洗米とは、お米の表面についた糠(ぬか)を洗い流す作業のことですが、実はこれが味を左右する極めて繊細な工程なのです。
東北に数台!最新マシンが再現する「職人の手」
かつては冷たい水に手を浸し、ザルを使って優しく手洗いしていましたが、今回導入された最新の洗米機は、水圧をコントロールすることでその手洗いの優しさを完全再現しています。一度に約150キログラムを処理できる上、その後の吸水作業も、水温や水分量をデータ化して管理することで、常に最高の状態をキープできるのです。
また、この改革はハード面だけにとどまりません。蔵の中を覗いてみると、そこには女性2名を含む8名の若き社員たちが生き生きと働いています。震災後に改装された休憩スペースは、ダウンライトが灯るおしゃれなカフェのような空間。ガラス越しに作業場が見えるその場所は、「若い人が働きたくなる環境」を徹底して追求した平井社長のこだわりの結晶です。
SNSでの反響とコラムニストの視点
この「日高見」の進化に対し、SNS上では日本酒ファンから熱い視線が注がれています。「今年の日高見は特に透明感があって旨い」「ラベルのデザインも社長が手掛けているとは知らなかった」「若い人が作っていると聞いて応援したくなった」といった称賛の声が後を絶ちません。金賞受賞はその実力が本物であることを証明しました。
私自身、このニュースには胸が熱くなります。「機械化」と聞くと、どこか味気ないものに感じる方もいるかもしれません。しかし、平孝酒造が目指しているのは手抜きの自動化ではなく、人間がやるべき創造的な作業に集中するための効率化です。商品を「作品」と呼び、愛情を注ぐ彼らの姿勢こそが、これからの日本酒文化を世界へと押し上げていく原動力になるはずです。宮城から世界へ羽ばたく「進化した日高見」の味を、今夜あたりじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。
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