2019年05月30日、ニューヨークのウォール街に不穏な空気が漂っています。前日29日の米株式市場では、ダウ工業株30種平均が続落し、前日比221ドル安の2万5126ドルで取引を終えました。これは約3カ月半ぶりの安値水準です。市場関係者の間で、ある不吉な言葉が囁かれ始めています。それが「Rワード」。すなわち「Recession(景気後退)」の頭文字をとった隠語です。これまで堅調と言われてきたアメリカ経済ですが、投資家たちは最悪のシナリオを脳裏に描き始めているようです。
この恐怖を端的に表しているのが、債券市場の動きです。リスクを嫌ったマネーが、安全資産とされる米国債へと雪崩を打って逃避しています。その結果、国債が買われて価格が上昇し、反対に利回りは低下しました。29日には米10年物国債の利回りが一時2.21%と、2017年09月以来の低水準を記録しています。米中貿易戦争が泥沼化し、世界経済が減速することへの懸念が、投資家心理を急速に冷え込ませているのです。
「逆イールド」発生は危機の予兆?リーマンショック以来の異常事態
今、マーケットが最も注目している現象があります。それが「逆イールド」の拡大です。専門用語で少し難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば「長期金利が短期金利を下回る逆転現象」のことです。通常、お金を長く貸す(国債を買う)方がリスクが高いため金利は高くなるはずですが、将来の景気が悪いと予測されると、長期金利が下がってしまうのです。
現在、3カ月物の金利に対して10年物の金利が一時0.15%も低くなりました。この開きは、あの2008年の金融危機、いわゆるリーマンショック以降で最大です。これは市場が「FRB(米連邦準備理事会)は将来、景気を支えるために利下げをせざるを得なくなるだろう」と予測していることを意味します。モルガン・スタンレーなどの専門家も「景気後退を監視するフェーズに入った」と警鐘を鳴らし始めており、株価下落と金利低下が互いに足を引っ張り合う「負の連鎖」が起きているのです。
SNSで広がる動揺と「計算できないリスク」の恐怖
このニュースに対し、SNS上でも個人投資家たちの悲鳴が上がっています。「令和になったばかりなのに大暴落は勘弁して」「逆イールドが出ると数年以内にリセッション入りするって本当?」「積み立てNISAの含み益が消えていく」といった不安の声が後を絶ちません。経済指標だけでなく、こうした心理的な動揺も相場を押し下げる要因となり得ます。
一方で、楽観論が完全に消えたわけではありません。米国の失業率は約50年ぶりの低水準で、GDPの7割を占める個人消費も底堅いままです。エコノミストの中には「まだ過度な心配は無用」とする声もあります。しかし、コラムニストとして私が懸念するのは、現在のトランプ政権と中国との対立が、経済学の予測モデルを超えた「ナイトの不確実性(発生確率すら計算できないリスク)」にあるという点です。
「Rワード」という言葉自体が独り歩きし、人々の恐怖心が実際の不況を招いてしまうことこそが最も恐れるべき事態でしょう。米中のトップが握手をするのか、それとも拳を振り上げるのか。私たちの生活にも直結するこの「見えない戦争」の行方を、固唾をのんで見守る必要がありそうです。
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