2019年05月30日、高齢化社会の歪みを象徴するかのような、痛ましい事件が福岡県で明るみに出ました。認知症の高齢者が共同生活を送るグループホームで、ケアを担うはずの職員が入居者に暴力を振るうという、あってはならない事態が発生したのです。福岡県警粕屋署は同日、入居する85歳の女性の顔を殴り怪我を負わせたとして、施設職員の吉村浩一容疑者(58)を傷害の疑いで逮捕しました。被害女性は両目にあざができるなど全治約1週間の怪我を負っており、力のない高齢者への暴力行為に世間は衝撃を受けています。
警察の調べによると、犯行が行われたのは2019年05月23日の午後4時頃から翌24日の午前10時頃にかけてのことでした。福岡県宇美町にある施設内で、吉村容疑者は女性の顔面を殴打するという凶行に及びました。動機について彼は「ストレスがたまり、イライラしていたのでつい手が出てしまった」と供述し、容疑を認めています。2017年09月頃からこの施設で働いていたベテランに近い職員が、なぜ感情を制御できなくなってしまったのでしょうか。
たった一人で9人を看る「ワンオペ夜勤」の過酷さ
この事件の背景には、介護現場が抱える慢性的な人手不足という構造的な問題が潜んでいるように思えてなりません。実は犯行当時、吉村容疑者は「夜勤」のシフトに入っており、被害女性を含めた計9人の入居者を、たった一人で担当していたのです。認知症の方々が暮らす「グループホーム」とは、専門スタッフの支援を受けながら少人数で共同生活を送る施設ですが、夜間における徘徊や排泄介助など、そのケアの負担は想像を絶するものがあります。
深夜、助けを呼べない密室で、認知症の高齢者9人と向き合い続ける孤独とプレッシャー。職員が抱えるストレスは限界に達していたのかもしれません。事件は、女性の顔にできたあざに気づいた他の職員が事情を聴いたことで発覚しました。もしこの発見が遅れていれば、さらに深刻な事態や常習化を招いていた可能性もあり、氷山の一角である恐れも否定できません。
「暴力は論外」だが「明日は我が身」…SNSで広がる波紋
このニュースに対し、SNS上では様々な反応が渦巻いています。「抵抗できないお年寄りを殴るなんて最低だ」「どんな理由があれ暴力は犯罪」といった容疑者への厳しい批判が殺到する一方で、現場を知る人々からは「夜勤ワンオペで9人は正直きつい」「綺麗事では済まない現場の過酷さが招いた悲劇」「職員のメンタルケアが放置されている」といった、構造的な問題を指摘する同情の声も少なくありません。
コラムニストとして私見を述べれば、いかなる理由があろうとも、弱者への暴力は決して許されるものではありません。しかし、容疑者個人の資質だけを責めて幕引きを図れば、第二、第三の事件が必ず起きるでしょう。介護職員が人間としての尊厳を保てる労働環境がなければ、入居者の尊厳も守ることはできません。「つい手が出た」という言葉の裏にある、介護現場の悲鳴に耳を傾け、国全体で制度を見直すべき時が来ているのです。
コメント