2019年5月30日、経済ニュースの片隅に「国際課税ルール」という、いささか堅苦しい言葉が登場しました。しかし、これを単なる専門用語として見過ごすわけにはいきません。なぜなら、これはGoogleやAmazonといった現代の巨大IT企業、いわゆる「GAFA」が、莫大な利益を上げながら十分な税金を払っていないのではないか、という私たちの素朴な疑問に直結する大問題だからです。今日はこのルールの歴史を紐解きながら、今まさに起きている「税の革命」について考えてみましょう。
まず、「国際課税ルール」とは何かを簡単に説明します。これは、国境を越えてビジネスをする企業に対し、「どこの国が、どうやって税金を取るか」を決めた取り決めのことです。現在の原則は、「PEなくして課税なし」というものです。PEとは「Permanent Establishment(恒久的施設)」の略で、支店や工場などの物理的な拠点を指します。つまり、「その国に工場や支店がないなら、いくら儲けてもその国は税金を取れませんよ」というのが、長年守られてきた世界の常識なのです。
第一次大戦後の復興と、1928年の「発明」
このルールの起源は、驚くほど古くまで遡ります。原型ができたのは19世紀末、オーストリア・ハンガリー帝国とプロイセンの間で結ばれた条約だとされています。その後、第一次世界大戦が終わり、荒廃した国土を復興させるために各国が税率を極限まで引き上げた結果、一つの企業が複数の国から二重に税金を取られる「二重課税」が大問題となりました。そこで国際連盟が中心となって調整に乗り出し、1928年に現在のルールの基礎となるモデル条約案が作られたのです。
それから約90年。1980年代には、国同士の税収の取り分を調整する「移転価格税制」などが導入され、微修正は続けられてきました。しかし、根幹にあるのはあくまで「工場や店舗を構えてモノを売る」という、20世紀型の対面ビジネスを前提とした発想です。当時は、物理的な拠点なしに巨額のビジネスを行う未来など、誰も想像していなかったに違いありません。
ネット空間に「工場」はない。デジタルの矛盾
ところが21世紀に入り、インターネットが普及したことで状況は一変しました。デジタル企業は、巨大な工場や支店を置くことなく、ネットを通じて国境を越え、世界中でサービスを提供して利益を上げることができます。「PE(物理的拠点)」がないから税金がかからない。この抜け穴のような現状に対し、SNS上では「ズルい」「私たちと同じように税金を払うべきだ」「ルールが時代遅れすぎる」といった、不公平感を訴える怒りの声が日に日に高まっています。
コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、今の国際課税ルールは、スマホで動画を見ている現代人に、固定電話の加入権の話をしているようなものです。産業構造そのものが「モノ」から「データ」へと激変した以上、税金のルールもOS(基本ソフト)から入れ替える必要があります。100年前に作られた「物理的な場所」に縛られる概念を捨て、デジタルの実態に即した新しい公平さを定義できるか。私たちはいま、歴史的な転換点を目撃しているのです。
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