2019年5月30日、日本の安全保障政策に大きな変革の予兆が報じられました。自民党のルール形成戦略議員連盟が、安倍晋三首相に対し、経済と安全保障政策を一元的に指揮する「日本版NEC」の創設を提言したのです。NECとは、アメリカの「国家経済会議」のことで、大統領直属の経済政策の司令塔として機能しています。この米国の仕組みをモデルに、省庁の壁を越えて国家戦略を練る体制を首相官邸に設けるという大胆な提案です。
この動きの背景には、米中間の貿易摩擦が、単なる関税の応酬を超え、デジタル技術や宇宙空間の覇権争いという、より根深い領域へ進んでいるという強い危機感があります。中国が国家主導で統一的な戦略を立ててくるのに対し、日本はこれまで経済と安全保障の議論が別々に行われ、「縦割り」になっているという弱点があったからです。安倍首相も、ファーウェイとの取引を見直す日本企業の現状に触れ、「NECのような機能を強めることは必要だ」と、経済分野のインテリジェンス強化に理解を示されました。
日本の「能天気」な体制が抱えるリスク
提言を取りまとめた甘利明氏(当時、選挙対策委員長)は、会談後、日本の体制を「極めて能天気だ」と強い言葉で批判しました。ここで甘利氏が強調したのは「インテリジェンス」の重要性です。インテリジェンスとは、単なる情報ではなく、諜報活動などで集めた情報を分析し、相手の行動の裏にある戦略的な意図を読み解く能力のことです。日本の企業や国民が気づかぬうちに、経済活動の裏で他国に利用されているリスクを常に把握できる体制が不可欠であると訴えています。
その具体的な脅威として挙げられたのが、中国が経済力を外交や安全保障の道具として使う「エコノミック・ステートクラフト」です。広域経済圏構想「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった巨大プロジェクト、あるいはファーウェイなどの民間企業を通じて、国家主導で世界の覇権を握ろうとする動きに、日本は無防備ではいられないのです。
「天網」の脅威と、技術の軍事転用リスク
さらに危険なのは、先端技術の動向です。提言では、中国の監視システム「天網(てんもう)」が、中国製の測位衛星やドローンと結びつくことで、自動運転車の開発や実社会への影響力を強める可能性が指摘されました。「天網」とは、中国全土に張り巡らされたAIによる監視カメラネットワークのことで、顔認証や行動追跡を可能にする巨大な情報システムを指します。また、日本の超電導などの産業技術が、海外で軍事目的に転用されるリスクにも言及されました。
SNS上では、この「日本版NEC」創設の動きに対して、「遅すぎるが、やらないよりマシ」「省庁の縄張り争いを乗り越えられるのかが最大の懸念だ」「GAFAやファーウェイに情報戦で負けている現状を何とかしてほしい」といった、期待と懐疑が入り混じった意見が飛び交っています。やはり、各省庁が持つ情報を一元化し、本当に首相官邸主導で機能するのか、という点に注目が集まっているようです。
コラムニストの主張:政治は国益を最優先できるか
コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、今回の提言は、米中対立という巨大な波を前に、日本がようやく「裸の王様」の状態から脱却しようとする決意の表れでしょう。経済的な利益と、国家の安全保障が不可分となった現代において、司令塔の創設は避けて通れない課題だと言えます。
重要なのは、その「日本版NEC」が、特定業界の利益や省庁の論理に引きずられることなく、長期的な国益を最優先できるか否かです。甘利氏の言葉を借りるなら、私たちは今、もはや「能天気」ではいられません。国家主導で戦略を統一し、米中という二大勢力の間で日本の技術と主権を守り抜く。政治の覚悟と実行力が、今まさに問われているのです。
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