米中間の貿易摩擦が激化の一途を辿る中、米国は貿易問題に加え、為替(通貨の交換比率)の分野でも中国に対する圧力を強めています。2019年5月28日に米財務省が公表した半期為替報告書では、中国の通貨政策運営について「深く失望した」と異例の強い言葉で批判を表明しました。特に、中国が為替介入の具体的な実績を公表していないことや、政策の透明性が低い点を問題視しているのです。
制裁措置の対象となる**「為替操作国」への指定は、今回の報告書では見送られました。しかし、米財務省は、今後6カ月間をかけてその可否を再検討すると明記しました。これは、為替問題を対中貿易交渉における強力なカードとして手元に残し、中国に対するプレッシャーを維持しようとする米政権の思惑が透けて見える動きと言えるでしょう。SNSでは、「貿易戦争の次は為替戦争か」「トランプ大統領の公約が現実味を帯びてきた」といった声が上がり、世界経済の不安定化を懸念する見方が広がっています。
今回、中国は引き続き「監視リスト」に指定されました。このリストは、「対米貿易黒字」「経常黒字」「為替介入の実績」という3つの基準で判断され、そのうち原則2つに該当すると指定されるものです。今回の報告書によると、中国は対米貿易黒字の大きさだけが基準に当てはまっています。中国の経常黒字(一国の貿易や投資による海外との取引状況を示す指標)は、国内総生産(GDP)の0.4パーセントにとどまり、米財務省が定める基準である2パーセントを大きく下回っています。それでも米当局は「対米貿易黒字が他の貿易相手国と比べて突出して大きい」ことを理由に、監視対象から外さない姿勢を示しています。
これに対し、中国外務省の陸慷報道局長は2019年5月29日の記者会見で、「為替問題を政治的な道具にしないよう望む」とし、「他国の為替政策を一方的に評価するべきではない」と強く反発しました。過去を振り返ると、米国が中国を「為替操作国」に認定したのは1994年まで遡るほど、そのハードルは高いものです。実際、現在の中国当局は、むしろ資本流出につながる人民元安を警戒しており、為替介入は人民元高に誘導する方向に動いているという指摘もあります。米財務省も、2018年の為替介入は「穏やかだった」と報告書で認めています。
にもかかわらず、報告書では「為替介入の実績の公表を見合わせていること」について「深く失望している」と述べ、中国に対し、外国為替政策の透明性**(政策決定の過程や内容が外部からわかりやすいこと)をさらに高める必要があると不満を並べました。また、人民元が直近1年間で対ドルで8パーセントも下落したことも指摘しています。為替操作国への認定は見送ったものの、6カ月後の再調査の際には、為替介入の実績に加え、「特大な貿易不均衡や通貨安誘導を促進してきた歴史」も判断材料にすると明言しました。
日米貿易交渉の「火種」と監視リスト拡大の意図
米国の為替を巡る圧力は、中国だけにとどまりません。米財務省は、日本も引き続き為替監視リストに指定しました。報告書内の表現は前回の2018年10月時点から大きな変化はないものの、日米は貿易協定交渉を開始しており、スティーブン・ムニューシン財務長官は、日本に対して通貨安誘導を制限する為替条項を貿易協定に盛り込むよう求めている状況です。米自動車業界は、円安が日本のメーカーの対米輸出攻勢につながることを警戒しており、為替問題は引き続き日米貿易協議の主要な懸案事項となるでしょう。
今回の報告書では、監視リストの基準が緩和され、イタリアやマレーシアなど調査対象国が拡大しました。米財務省がリストの条件とする経常黒字や為替介入の基準を引き下げたことで、より多くの国を監視対象に加えることが可能になったのです。また、為替報告書では、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」で「3カ国が不公平な為替政策を回避すると約束した条項を、貿易協定に盛り込んだ」と成果を誇っています。
私見を申し上げますと、米国は、今回の為替報告書を通じて、特定の国を制裁対象とする「為替操作国」の指定にとらわれることなく、為替問題を多角的な圧力手段として活用する戦略を明確にしたと言えます。特に中国に対しては、為替操作国という「伝家の宝刀」を鞘に納めたまま、6カ月という期限を設けることで、交渉を有利に進めようとする高度な駆け引きが見て取れます。為替を貿易問題の交渉カードとすることは、国際的な通商ルールにおいては異論も多いでしょうが、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」の姿勢を象徴する動きであり、今後の国際金融市場にも大きな影響を与えることは間違いありません。
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