米中間の貿易摩擦が激化する中で、中国政府がレアアース(希土類)の輸出規制を示唆したことは、世界の産業界に大きな衝撃を与えています。このレアアースの供給動向を、日本の主要企業も極めて厳しく注視している状況です。なぜなら、日本企業にとって、レアアースの輸出制限は過去に苦い経験があるからです。2010年から2011年にかけて、領土問題を背景に中国が対日レアアース輸出を制限した結果、日本企業は調達の困難に直面し、その影響の大きさを痛感しました。
中国は現在、世界のレアアース市場において約8割のシェアを占めており、仮に中国側が米国への輸出規制に踏み切れば、その影響は価格高騰という形で日本企業にも波及する可能性が高いでしょう。住友商事の担当者も、「レアアースの供給は中国が世界市場の約8割のシェアを占めており、仮に輸出規制となれば(市況などへの)インパクトは大きい」と、研磨剤用途を中心に扱う立場から強い警戒感を示しています。
特に、高性能磁石の原料となるネオジムや、磁石の耐熱性を高めるジスプロシウムといった重要なレアアースの価格は、前回の輸出制限時、一時的に10倍近くにまで跳ね上がりました。この経験から、日本企業は調達先の多様化としてオーストラリアなどへの依存度を上げたり、代替素材やリサイクル技術の開発に奔走したりと、活路を見出してきた歴史があります。
具体的に、信越化学工業は磁石に使うレアアースの量を減らすとともに、リサイクル技術を強化しました。その結果、一部のレアアースについては、1つの磁石に使う中国産の量を10年間で3分の1以下に削減することに成功したといいます。また、トヨタ自動車は2018年に、ネオジムの使用量を半減させ、高温下でも磁力が損なわれない新型磁石を世界で初めて開発するという、技術的なブレイクスルーを成し遂げました。
こうした取り組みにより、日本企業の中国産レアアースへの依存度(特定の供給源に頼る度合い)は以前よりは下がってはいるものの、問題は根深く残っています。なぜなら、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)のモーターに不可欠な高性能磁石向けのレアアース需要は、今後も世界的に拡大することが見込まれているからです。米中摩擦の余波で価格が再び高騰すれば、日本企業の調達コストが上昇し、収益を圧迫する重荷となる恐れがあります。
SNSでは、「日本は10年前からちゃんと対策していたんだな」「技術開発で乗り越えるしかない」「中国に頼らない真の経済安全保障が必要だ」といった、技術力への評価と、経済安全保障(経済的な手段で自国の安全を確保すること)の重要性を訴える意見が目立ちました。実際に、レアアースを取り扱う専門商社によると、現時点では「米中摩擦を背景に顧客がレアアースの在庫を積み増すような動きは確認していない」とのことで、企業がパニック的な行動を起こすことなく、冷静に対応している様子がうかがえます。
この10年間で日本企業が進めてきたのは、リサイクルによるレアアースの確保や、中国への依存脱却に向けた技術開発という、幅広い取り組みです。例えば、トヨタグループの自動車部品大手であるジェイテクトは、2019年1月にネオジムとジスプロシウムを使わずに高出力を維持できる埋め込み磁石型モーターを開発しました。このモーターでは、中国以外でも採掘されて比較的安価なサマリウムを代替素材として使用しています。
私見を述べさせていただきますと、中国が持つレアアースという強力な経済的武器は、国際政治における影響力が非常に大きいものです。日本企業が10年前に味わった苦難を教訓とし、技術革新と調達先の多様化を進めてきたことは、「リスク分散」という点で極めて賢明な判断だったと評価できます。今後も、中国という特定の国に依存しないサプライチェーン(供給網)を構築し、高性能モーターを支える代替技術の開発を継続していくことが、日本の産業競争力と経済安全保障を維持していく上で、最も重要な戦略となるでしょう。
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