日本の化学業界において、グローバルな競争力を強化するための大きな一手として、紙おむつ原料の二大巨頭が手を取り合うことになりました。高吸水性ポリマー(SAP)の分野で世界首位の日本触媒と、同5位の三洋化成工業が、2019年5月29日に経営統合を目指す基本合意を発表したのです。この統合が実現すれば、両社の世界シェアは一気に3割にまで拡大し、名実ともに世界的なリーディングカンパニーが誕生する見込みです。この決断の背景には、アジアの新興ライバル企業による相次ぐ増産によって、市場の需給バランスが緩み、事業環境が厳しさを増しているという切実な問題があります。世界での存在感を保ち続けるためには、もはや「規模の拡大」が避けて通れない道だと、両社は判断されたのでしょう。
両社は「対等の精神に基づく」統合を目指すとし、年内の最終契約締結に向けた詳細な協議を進めていく方針です。計画では、2020年10月を目途に、両社を完全子会社とする持ち株会社を設立する予定となっております。新会社の社長には日本触媒の五嶋祐治朗社長が、代表権を持つ会長には三洋化成の安藤孝夫社長がそれぞれ就任されます。この統合により、単純な人員削減は行わないと明言されており、各社の強みを活かし合う体制が構築されることに期待が集まります。
SNSなどでの反響を見てみると、この統合発表は、日本の化学産業の競争力強化につながるとして、市場から非常にポジティブに受け止められていることが分かります。発表翌日の2019年5月30日には、両社の株価が一時的に大きく上昇し、特に日本触媒は一時10%高、三洋化成工業も一時12%高と、投資家の期待の高さが伺える値動きとなりました。「巨大な国内勢がタッグを組んで海外勢に対抗するのは理にかなっている」「世界シェア3割はインパクトが大きい」といった、グローバルでの活躍を期待する声が多数見受けられます。しかしながら、その後の株価は買い一巡で落ち着きを見せ、今後のシナジー効果の実現性に注目が集まっている状況でしょう。
私の意見としては、この統合は、日本の化学産業が抱える構造的な課題に真っ向から立ち向かう、非常に英断に満ちた決断であると評価しています。国内の上場化学企業は200社を超えるとされ、各社が高い技術力を持ちながらも、ニッチな市場を分け合う形で乱立し、国際的な再編の波に乗り遅れてきたという側面があります。この結果、規模の小ささが、グローバルなコスト競争における足かせとなっていました。今回の統合は、この「ニッチ割拠」状態から脱却し、世界を相手に戦える「巨大な統合体」を生み出す、象徴的な出来事になるに違いありません。
日本触媒の最大の強みは、紙おむつなどに使われる、尿などを効率よく吸収する素材である高吸水性ポリマー、略してSAP(スーパー・アブソーベント・ポリマー)や、その主要な原料であるアクリル酸を、自社で一貫生産できるという、同業他社に比べて高い競争力にあります。2018年時点で、同社のSAP生産能力は約2割で世界首位を誇っています。一方、三洋化成工業が得意とするのは、非常に特殊な用途に特化したニッチな素材です。同社は約3,000種類以上の商品を扱っており、一つ一つの需要は小さいものの、他社が手掛けない高収益な製品群を多く保有している点が特徴的です。
この異なる強みを持つ二社が統合することで、技術とコストの両面で大きな相乗効果、すなわちシナジーを生み出すことが期待できます。2019年5月29日に大阪市内で開かれた記者会見で、日本触媒の五嶋社長が「両社の技術やコストで相乗効果を生み、コスト削減でグローバル競争に対応する」と説明された通り、統合によって、国内の強固な基盤と、ニッチな高付加価値製品群が組み合わさります。単純合算で年110万トンとなるSAPの生産能力に加え、三洋化成の持つ顧客課題に応える技術と、日本触媒の素材力が融合し、新たなソリューション提供が可能となるでしょう。
世界市場で生き残るための「規模の追求」
化学産業における規模の拡大は、グローバル市場で生き残るための絶対条件になりつつあります。日本触媒は、2018年にはベルギーでSAPとその原料であるアクリル酸の生産設備を増強するなど、成長の柱と位置づけるSAP事業に積極的に資金と人員を投じてきました。今回の統合によって、両社の持つ技術や生産拠点の最適化が進めば、さらなるコスト競争力の向上が見込めるでしょう。世界のSAP需要は2018年時点で年300万トンと推計されており、この巨大市場で確固たる地位を築くためには、他社の追随を許さない生産規模を持つことが不可欠です。今後は、各国における独占禁止法、すなわち独禁法の当局との協議を経て、統合の実現に向けた最終的な手続きが進められます。
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