2019年5月31日、山下貴司法務大臣は閣議後の記者会見で、現行の民法に定められている親の「懲戒権」について、法制審議会に諮問する方針を明らかにされました。このニュースは、子育てのあり方や、親子の関係性に深く関わる極めて重要な転換点となりうるでしょう。
懲戒権とは、ざっくりと言えば、親権を持つ者が、子の教育や保護のために必要な範囲内で懲戒(制裁や罰則)を加えることを認めた法律上の権利を指します。しかしながら、近年、悲惨な児童虐待事件が後を絶たない状況下で、この懲戒権が**「しつけ」という名目のもと、親が子どもを虐待することを正当化する口実として悪用されているという、厳しい指摘が相次いでいるのです。
この法務大臣の発言は、SNS上でも大きな反響を呼んでいます。「時代に合わない権利だ」「子どもの人権を守るために当然の措置」といった賛成意見の一方で、「しつけの線引きが難しくなる」「親の教育権が失われるのではないか」といった懸念の声も聞かれ、議論は白熱している状況です。子育て経験者や教育関係者を中心に、非常に高い関心が寄せられていることが見て取れるでしょう。
法制審議会は、法務大臣の諮問を受けて、民法の規定をどのように見直すべきか、本格的な議論をスタートさせる見込みです。焦点となっているのは、懲戒権を完全に削除するのか、あるいは文言を根本的に変更して、その意味合いを限定・明確化するのかという点になるでしょう。実は、2011年の民法改正時にも、懲戒権の取り扱いについて議論が行われましたが、その際には削除は見送られ、「子の利益のため」になる場合に限って認められる、という形での明記にとどまった経緯があります。
しかし、その後の児童虐待の深刻化を見れば、この「子の利益」という曖昧な表現だけでは、「体罰」を伴う不適切な「しつけ」を完全に防ぐことができていない現状が浮き彫りになってしまいました。また、ちょうどこの国会では、親による体罰禁止を明確に盛り込んだ児童虐待防止法と児童福祉法の改正案も審議されている最中です。これらの動きは、社会全体が「子どもへの体罰は、いかなる理由があっても認められない」という共通認識を確立しようとする、強い意志の表れだと私は感じています。
もちろん、親が子どもの安全を守り、社会で生きていくためのルールや規範を教える「教育権」や「しつけ」の重要性は論を俟たないでしょう。しかし、その「しつけ」が、子どもの心身を傷つける虐待になってしまっては本末転倒です。法制審議会における懲戒権の見直し議論は、「親の権利」と「子どもの人権」のバランスをどのように取るべきか、そして「正しいしつけ」とは何か**を、私たち大人一人ひとりに問いかけるものとなるに違いありません。
体罰に頼らない子育てへの転換期
この議論の先には、体罰や威圧に頼らず、対話と愛情に基づいた新しい子育てのスタイルを社会全体で築き上げていくことが求められています。法律が改正されたとしても、大切なのは私たち市民一人ひとりの意識改革ではないでしょうか。懲戒権の行方がどうなるにせよ、児童虐待という悲劇を根絶するため、親の不安や孤立を解消し、子育てをサポートする社会的な仕組みの強化こそが、今、最も急務であると考えます。
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