今、日本の金融業界に新しい波が押し寄せています。それは、既存の銀行が、銀行免許を持たない異業種の企業と手を組み、「ネオバンク」と呼ばれる新しい金融サービスの形を支援し始めているという動きです。これは、IT技術と金融が融合したフィンテックの一種として、2009年頃から米国を中心に広がりを見せているビジネスモデルです。自らは銀行免許を持たないものの、既存の銀行の機能、例えば決済や融資などをスマートフォン(スマホ)に取り込んで提供する企業を指します。一方、自ら免許を取得して銀行業務を行う企業は**「チャレンジャーバンク」と呼ばれています。
金融と非金融の境界線が曖昧になる現代において、このネオバンクとの連携は、従来の銀行にとって競合となる新興勢力を単に排除するのではなく、協調を通じて収益源を多角化していくという、非常に賢明な戦略であると私は考えます。デジタル化が急速に進む中で、異業種が持つ膨大な顧客基盤や、日々の生活の中で得られるデータを取り込むメリットは、既存の事業と顧客が奪い合われるリスク、いわゆる「共食い」の懸念を上回るとの見立てがあるからです。
この協調戦略を具体的に進めているのが、新生銀行グループや住信SBIネット銀行といった金融機関です。新生銀行グループは、2020年から異業種の企業向けに「ネオバンク・プラットフォーム(基盤)」の提供を計画しています。このプラットフォームを利用すれば、サービスを展開したい企業は、レンディング(融資)や送金、ATMでの入出金、チャージといった銀行機能の中から、自社サービスに必要なものだけを選んで取り入れることが可能になるのです。
たとえば、ある家電量販店がこのサービスを活用し、自社のアプリに融資機能を追加したとしましょう。消費者は店頭で高額な買い物をするとき、もし手持ちの現金が足りなかったとしても、アプリ上で瞬時に融資を受け、そのまま決済を完了させることが可能になります。さらに保険の機能も加えれば、購入した商品に対する少額短期保険なども、その場ですぐに申し込めるようになるでしょう。これらの実際の金融サービス提供は新生銀行側が行いますが、家電量販店は自社のエコシステム(経済圏)の中で一貫した金融サービスを提供できる体制を整えられるのです。これは、企業が単独で金融業に参入する際に必要となる貸金業の登録や、複雑なシステム構築といった莫大なコストを大幅に削減できるという、大きな魅力があります。
新生銀行グループの場合、サービスの提供を傘下の信販会社であるアプラスが担うため、利用企業は銀行代理業の許可を取得する必要がありません。この仕組みは、地域金融機関などにも利用を広げていくことを視野に入れたものと思われます。一方、住信SBIネット銀行も、2018年10月に異業種との連携を専門とする「ネオバンク事業部」を新設しました。現在、大手企業との間で、融資や預金機能の提供に向けた具体的な交渉が進められているということです。
このような連携が加速する背景には、改正銀行法による法的な整備も大きく影響しています。金融機関が、異業種が銀行システムに接続できるように仕様を公開する「オープンAPI」**が整備されたことで、システム間の連携が格段に容易になったのです。この「ネオバンク」という新しい金融のあり方は、今後、私たちが日常的に利用するサービスの中に、意識せずとも金融機能が組み込まれていく未来を予感させます。既存の金融機関の持つ信頼性と、異業種の持つ顧客接点の強さが融合することで、より便利で身近な金融サービスが次々と生まれることに、大いに期待しています。
コメント