2019年05月30日、楽器製造の世界的リーダーであるヤマハが、インドでの現地生産に乗り出すという、驚きのニュースを発表いたしました。これは、急成長を続けるインド市場を、中国に次ぐ重要な成長エンジンとして捉えている証拠です。インドの中間層は目覚ましい勢いで拡大しており、その音楽への関心の高まりに応える形で、地元消費者の嗜好に合った製品を現地で製造し、販売を大幅に伸ばしていく計画です。
特に注目すべきは、インドのチェンナイにある新工場が、単なる国内市場向けだけでなく、輸出拠点としても位置づけられている点です。米中貿易摩擦が激化し、国際的なサプライチェーン(供給網)に不確実性が増すなか、ヤマハはこのインド工場を、地政学的リスクを分散させるための戦略的な拠点と見なしているのでしょう。同社は、2019年中にこのインド製楽器を世界に向けて輸出を始める予定です。
インド生産の記念すべき第1弾として登場するのは、キーボードです。このモデルは、インド固有の打楽器であるタブラ(主に両手で叩いて演奏される太鼓の一種)や、優雅な弦楽器であるシタール(長くて丸い胴を持つインドの代表的な撥弦楽器)など、現地の独特な音色を搭載した「インド専用モデル」として開発されました。これは、現地のニーズを徹底的に取り込み、電子楽器のラインナップを充実させるという、同社の強い意志の現れと言えるでしょう。このアプローチは、SNS上でも「現地の文化を尊重した素晴らしい戦略だ!」「ローカライズが進んでいて面白い」と、音楽愛好家やビジネス層から大きな反響を呼んでいます。
販売戦略も極めて積極的です。ヤマハは、人口100万人規模の都市を中心に、販売店を3年間で1,600カ所と、現在の2倍にまで大幅に増やしていく方針を打ち出しました。こうした攻めの姿勢によって、同社は3年後にはインドでの売上高を約60億円程度にまで引き上げ、現在より5割増を達成するという野心的な目標を掲げています。
この新工場は2017年に着工し、2019年04月に本格的な生産を開始いたしました。約50億円が投資され、約250人の従業員が働くこのチェンナイ工場は、日本や中国、インドネシアなどに続く、ヤマハにとって世界で12カ所目の生産拠点となります。同社インド法人の芳賀崇司社長は、日本経済新聞の取材に対し、「中国は賃金上昇に加えて、貿易摩擦などのリスクも抱えているため、代替となる輸出拠点を模索していました」と明かしており、インド工場への期待の高さをうかがわせました。
筆者の意見としましては、ヤマハのこの戦略は、まさに一石二鳥の賢明な一手であると考えます。まず、世界で最も成長著しい巨大市場の一つであるインドの需要を直接掴みに行くことで、今後の収益の柱を育てるという側面があります。そして同時に、不安定化する国際情勢、とりわけ米中間の緊張が高まる中で、生産拠点を分散させることで、安定した供給能力を確保するというリスクマネジメントの側面も完璧に果たしているのです。インドの豊かな音楽文化を尊重した製品開発と、グローバルな視点での戦略的な拠点配置、この二つの車輪が、ヤマハをさらなる高みへと導くことでしょう。今後のインド製ヤマハ楽器の活躍に、期待が高まるばかりです。
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