2019年5月31日に公開された本稿が取り上げるのは、「ダイバーシティ」という現代の企業経営において最も重要なキーワードの一つです。この言葉は、性別、人種、年齢、性的指向、障がいの有無など、あらゆる違いを持つ人々を組織に取り込み、その多様性を活かすことで、新たな価値創造や競争力強化を目指す取り組みを指します。有能な人材を発掘し、斬新なアイデアを喚起し、変化し続ける社会の多様なニーズへ的確に対応するため、ダイバーシティの充実は、企業にとって避けて通れない経営課題になっているのです。
しかしながら、このダイバーシティ推進が、企業が自発的に進めるべき課題であるにもかかわらず、日本においては「コーポレートガバナンス・コード」の一環として、行政から促されるべき筋合いのものとなっている点に、筆者(桃李氏)は極めて日本的な特異現象を見ています。国際化が進み、市場のニーズが多様化すれば、それに対応できる多様な人材が成長に不可欠となるのは自明の理です。それにもかかわらず、行政主導の経営課題として改めて浮上すること自体、日本社会の構造的な課題を浮き彫りにしていると言えるでしょう。
日本は周囲を海で隔てられ、民族や言語、宗教、文化的な均一性が極めて高い社会です。しかし、世界の先進国の労働市場を見渡せば、すでに多様な人材が当たり前に存在しています。例えば、ロンドンの金融街「シティ」では、勤務する英国人が3分の1ほどしかいないという「ウィンブルドン現象」が見られます。これは、国際的な金融取引の担い手が、世界中から集まった非英国人によって占められている状況を指し、多様な人材が国際競争力を支えている証拠と言えますね。
また、アジア諸国では若者や女性の地位が高いのに対し、日本の伝統的な企業では、残念ながらこれらの層が活躍する場が十分に提供されていませんでした。しかし、近年、デジタル革命によって市場は瞬く間に国際化し、物理的な距離はもちろん、言語や文化的な隔たりまでもが克服されつつあります。市場のニーズや技術も多様化し、世界は目まぐるしく変化しています。まるで、今まで日本を取り囲んでいた海が消え失せ、市場が諸外国と陸続きになったと表現できるほど、劇的に状況が変わりつつあるのです。
こうした変化に真摯に対応し、国際的な競争力を維持しようとする企業であれば、自然と人材は多様になるはずです。むしろ、多様性を内在しているからこそ、そうした企業は発展を遂げると言えるでしょう。現に、海外へ積極的に進出して成長している中小企業を見ても、人材の多様性は、時代の変化に迫られた結果としての「必要悪」ではなく、「必然」として受け入れられているのが実情です。
企業成長の本質は、この「変化への対応力」にあると断言できます。この対応力の欠如こそが、競争力の低下や、長期にわたる低成長、そしてデフレ(物価が持続的に下落する経済状況)継続の基本的な原因を生み出していると筆者は考えます。この点で、私は桃李氏の指摘に強く賛同するものです。問題の本質は、変化への対応力の欠如というよりも、むしろ「男性中心の年功序列制」に基づく現経営陣や従業員層の給与体系を含む「既得権益」にあると見るべきでしょう。
この既得権益こそが、変化の受容を阻む最大の要因です。自身の任期が短い経営者が、目先の収益に貢献しない長期的な課題を先延ばしにする間に、企業の衰退は着実に進行してしまいます。問題を知りつつも、自己保身に走る経営者がいる企業は急速に衰退する一方、私利私欲に囚われず、公の精神を持つ経営者に率いられた企業は、変化を積極的に受け入れて成長を続けることができるのです。
SNS上でのこうした議論の反響を見ても、「形式だけ整えても意味がない」「結局はトップの本気度が試されている」「変化を恐れる硬直した組織文化が問題」といった意見が多く見受けられ、本稿の主張の核心を突いています。ダイバーシティの形式を整えること自体が目的ではありません。市場、技術、思考法などの変化に対応し、新商品・サービスの開発力や、国際的な競争力を強化することこそが本質的な目標です。つまり、ダイバーシティ推進の課題は、突き詰めれば企業経営そのものの「本質」が問われている、極めて奥深い問題だと言えるのではないでしょうか。
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