世界的な自動車輸出大国であるドイツの自動車産業が、今、かつてない逆風にさらされています。民間調査会社のマークラインズのデータによると、2019年3月の自動車生産台数は、なんと2018年11月以来、5カ月連続で前年同月比マイナスを記録しました。この数字は、世界有数の自動車産業が停滞の危機にあることを示唆していると言えるでしょう。
具体的な数字を見てみましょう。2019年3月のドイツ国内の自動車生産は、前年同月比で12.7パーセントの大幅減となる48万2938台でした。直近1年間の動きを追うと、2018年4月から2019年3月までの単月ベースで前年を上回ったのは、2018年4月と10月のわずか2回しかありません。ドイツの自動車生産が明らかにブレーキがかかっている状況が浮き彫りになってきているのです。
生産が落ち込んでいる背景には、いくつかの複合的な要因が絡み合っています。まず、環境規制への対応が挙げられます。2018年9月に導入された新しい燃費試験「WLTP(乗用車等の国際調和燃費・排出ガス試験法)」への対応に各社が追われ、特に独フォルクスワーゲン(VW)は一時的に生産を休止せざるを得ない事態に直面しました。このWLTPとは、より実態に近い燃費や排出ガスを測定するための国際的な新基準のことで、これに適合するための準備が生産ラインに大きな影響を与えてしまったのです。
しかし、さらに懸念を深めているのは、複雑化する国際的な「通商問題」、すなわち貿易摩擦による閉塞感でしょう。ドイツ自動車工業会(VDA)の発表でも、2018年の乗用車生産台数は前年比9パーセント減の511万8800台、輸出も同9パーセント減の399万500台と大きく落ち込んでいます。国内市場の規模が約340万台で横ばいであるドイツにとって、輸出はまさに産業の屋台骨であり、この落ち込みは極めて深刻な問題なのです。
世界経済を翻弄する二つの大きな火種
この輸出減少の大きな原因として、世界経済を揺るがす二つの火種、「ブレグジット」と「トランプ政権による輸入車規制」の影響が避けられません。ドイツの最大の輸出先である英国向けは、2018年に前年から13.4パーセントも減少しました。英国のEU(欧州連合)離脱、いわゆるブレグジットの期限は、当初の2019年3月末から10月末まで延期されましたが、「合意なき離脱」が現実のものとなれば、英国向けの乗用車に10パーセントという高率の関税が発生するリスクは未だに解消されていません。自動車業界は、この不確実性に大いに悩まされていると言えるでしょう。
また、輸出先第2位の米国向けも、2018年は47万474台と前年比4.7パーセント減少しました。トランプ政権は、安全保障を理由に輸入される自動車や部品に対して高関税を課すことを検討しており、この先行きも極めて不透明です。トランプ大統領は2019年5月17日に、自動車への追加関税に関する判断を最大180日間先送りすると発表しましたが、米国市場へのアクセスがどうなるかは依然として予断を許さない状況です。
このような国際貿易の不透明感が、世界有数の自動車輸出国であるドイツを直撃しているのです。SNS上では「ドイツ車といえば品質と技術の象徴だったのに、通商問題でこんなに揺らぐなんて信じられない」「ブレグジットとトランプのダブルパンチはあまりに重すぎる」といった、現状への懸念を示す声が多く見受けられます。多くの読者が、この状況がドイツ一国に留まらず、世界全体の自動車産業の停滞につながりかねないという危機感を抱いていることが分かります。
「CASE」への投資戦略に飛び火する通商問題の悪影響
さらに懸念すべきは、この通商問題が、自動車業界の未来を左右する重要戦略「CASE」への投資戦略にも悪影響を及ぼし始めている点です。「CASE」とは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Sharing(シェアリング)、Electrification(電動化)の頭文字をとった言葉で、この技術革新への対応は、自動車メーカーにとって喫緊の課題となっています。独VWのように電気自動車(EV)へのシフトを強め、戦略車「ID.3」の生産を2019年内にもドイツ国内で開始する予定など、各社は巨額の投資を計画しています。
このような巨額の投資が必要な時期に、通商問題による輸出の減少や、先行き不透明な状況が続くと、企業の収益が圧迫され、未来への投資が滞ってしまうリスクが高まります。私見ですが、ドイツ自動車産業が直面しているのは、単なる一時的な生産減ではなく、国際情勢の激変と、100年に一度と言われる技術革新という、二つの大きな波が同時に押し寄せているという構造的な問題なのでしょう。世界経済の不安定さが、未来技術への挑戦の足を引っ張るという現状は、非常に憂慮すべき事態であると言えます。ドイツの抱えるこの問題は、世界の自動車業界の停滞を招きかねない重要なポイントだと断言できるでしょう。
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