長引く少子化の流れは、乳幼児向けの「紙おむつ」市場にも影を落とし、通常であれば激しい価格競争が予想されるところです。しかし、驚くべきことに、この市場は単純な縮小や価格の叩き合いには陥っていません。その状況を食い止めているのが、肌触りや通気性を格段に向上させた**「プレミアム製品」の存在感の飛躍的な高まりにあるのです。これらの高級品は従来品よりも1枚あたりの単価が約3割も高いにもかかわらず、市場の縮小に歯止めをかける重要な役割を担っていると言えるでしょう。
ベビー用品専門店の赤ちゃん本舗が指摘するように、現代の消費者は価格だけを追求するのではなく、品質を重視する傾向が顕著になっています。核家族化や共働き世帯の増加を背景に、子ども1人にかける費用が増加しており、「わが子にはより良いものを使ってあげたい」という親の強い愛情が購買行動を動かしていることが分かります。実際、同社の店舗では、2018年に「プレミアム」や「ハイプレミアム」と呼ばれる高機能製品の売上高が、前年比で約20パーセントも伸長しており、その人気の高さがうかがえます。
このプレミアム市場を最初に切り開いたのは、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン)です。同社が2010年に「パンパース プレミアムケア」を発売し、2012年には「パンパースの肌へのいちばん」として刷新されました。「羽毛のようなやわらかさ」を謳うこの製品は、ユーザーの間で「はだいち」という愛称で親しまれ、その高い肌触りと通気性で、親御さんの心を見事に掴みました。
この成功を受けて、他社も追随しています。ユニ・チャームは2016年、表面シートにオーガニックコットンを使用したテープタイプの「ナチュラル ムーニー」を投入し、翌2017年にはパンツタイプの「ナチュラル ムーニーマン」も発売しました。また、王子ネピアも2017年に新ブランド「Whito(ホワイト)」を市場に送り出しており、プレミアム帯の製品ラインナップはますます豊富になっています。赤ちゃん本舗の紙おむつ売り場に占めるプレミアム製品の比率は、2017年の約10パーセントから25パーセントへと大幅に拡大しており、消費者の選択肢が増え、高価格帯の製品への関心が高まっていることが分かります。
プレミアム製品の市場拡大は、紙おむつ市場全体の活性化に大きく貢献しています。通常のレギュラー製品が1袋あたり1,200円から1,400円程度で、例えばパンツタイプLサイズが44枚入りであるのに対し、「ナチュラル ムーニーマン」は36枚、「パンパースの肌へのいちばんパンツ」は34枚と、入っている枚数が少ないため、1枚あたりの単価はレギュラー品と比較して約3割も高くなる計算になります。この高付加価値製品の増加は、国の経済指標にも影響を与え始めています。
家計が購入する商品の価格変動を示す消費者物価指数(CPI)では、現在「パンツ型Lサイズ(44枚入り)」の10枚当たり単価が採用されています。この単価が2018年には前年比で1.1パーセントの上昇を記録しました。これはデータが存在する1991年以降、消費税率が5パーセントから8パーセントに引き上げられた2014年(3.1パーセント上昇)を除けば、最大の伸び率であり、長らく価格が下がり続けてきた紙おむつという商品に、明らかな変化の兆しが現れたことを示しています。CPIの調査対象は時期によって変動しているものの、高価格帯のプレミアム製品が市場に与える影響力の大きさが浮き彫りになったと言えるでしょう。
また、近年はインバウンド**(訪日外国人観光客)による「爆買い」や、インターネットを通じて国境を越えて商品が取引される越境ECの普及も、国内の紙おむつ生産を大きく押し上げてきました。日本衛生材料工業連合会の統計によれば、2017年の生産量は159億枚に達し、2010年と比べて8割強も増加しています。業界では、これら「外需」の影響を除いた国内消費者向けの市場規模は1,300億円から1,400億円程度と推計されており、ここ数年はほぼ横ばいを維持している状況です。
市場規模が縮小せずに踏みとどまっている背景には、プレミアム市場の拡大だけでなく、紙おむつを使う期間が長くなっているという要因もあります。ユニ・チャームの調査によると、「おむつ外れ」の時期は現在、3歳半前後となっており、これは5年から10年前の2歳半ばから後半と比較して長期化しています。この背景には、保育所の充実や共働き世帯の増加といった、現代の社会構造の変化が影響していると推測されます。
おむつ外れの遅延によって大きいサイズの需要が増す一方で、低体重で生まれるお子様が増えたことにより、各メーカーは3,000グラムから使用できる小さいサイズも続々と発売しています。さらに、夜間の就寝時専用のタイプや、短時間の使用に特化したタイプなど、用途に合わせた多岐にわたる商品を市場に送り出しているのも、近年の市場の特徴と言えるでしょう。
厚生労働省の推計では、2018年の出生数は92万1,000人となっており、これは1989年(平成元年)と比較して32万人以上も少ない過去最少の記録です。出生数が減少の一途をたどる中にあっても、乳幼児向け紙おむつ市場がその規模を現状で維持できているのは、単なる必需品としてではなく、「わが子の快適なおむつライフ」を心から願う親の深い愛情という、目に見えない価値に寄り添い、きめ細やかな商品展開を追求しているからに他なりません。日本のものづくり、特に高品質な紙おむつの技術と、それに応えようとする親の想いが、未来の市場を支えていると言えるでしょう。
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