戻り基調にあった米株式市場に、突如として冷や水が浴びせられました。2019年5月31日のニューヨーク株式市場で、ダウ工業株30種平均は反落し、心理的な節目である2万5000ドルを割り込む展開となったのです。終値は2万4815ドルと、約4カ月ぶりの安値水準に沈みました。この急落の引き金となったのは、トランプ米政権による「メキシコへの追加関税」の発表です。不法移民対策を名目に、すべてのメキシコ製品に対して関税を課すという強硬姿勢が、市場に広がる景気先行きへの警戒感を一気に高めてしまいました。
月間ベースで見ても、5月は今年に入って初めての下落を記録し、その下落率は6.7%に達しました。これは5月としては2010年以来、実に9年ぶりの大きさです。まさに市場は、トランプ大統領の予測不能な一挙手一投足に翻弄されている状況と言えるでしょう。SNS上でも投資家たちからは「またトランプ砲か」「いつまでこのツイート相場に付き合わされるのか」といった、疲弊と混乱の声が数多く上がっています。
予測不能な「モグラたたき」政策のリスク
「モグラたたきのような米国の通商政策が、世界経済に悪影響を及ぼす危険性が高まっている」。専門家からはこのような嘆き節も聞こえてきます。トランプ政権は、不法移民の流入対策が不十分だとして、2019年6月10日からメキシコからの全輸入品に5%の関税を課すと2019年5月30日に発表しました。実は、米国とメキシコは新たな貿易協定である「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」の批准手続きを始めたばかりでした。これはいわば、旧NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新しい枠組みです。
鉄鋼やアルミニウムの追加関税を解除し、協定の早期発効を目指していた矢先の出来事だっただけに、市場にとっては完全なる「不意打ち」でした。最大で25%まで関税を引き上げるという脅しは、サプライチェーンを直撃します。実際に、メキシコに生産拠点を持ち米国へ輸出しているゼネラル・モーターズ(GM)やフォードといった自動車メーカーの株価は大幅安となりました。また、メキシコビール「コロナ」を展開するコンステレーション・ブランズなども売られ、影響は広範囲に及んでいます。
冷え込む投資家心理とFRBへの期待
トランプ大統領が対中関税の引き上げを表明した2019年5月5日以降、市場のセンチメントは悪化の一途をたどっています。米個人投資家協会の調査によれば、2019年5月29日時点で、今後の相場に「強気」と答えた人から「弱気」を引いた比率はマイナス15.3%まで落ち込みました。これは昨年12月以来の低水準です。私自身、ここまで政策が一貫性を欠くと、企業側も設備投資などの長期的な計画が立てられず、実体経済へのダメージが深刻化するのではないかと強く懸念しています。
こうした混乱の中で、市場の熱い視線が注がれているのがFRB(米連邦準備理事会)です。これは米国の中央銀行にあたる機関ですが、現在「利下げ」への期待が急速に高まっています。金利先物の動向を示す「フェドウオッチ」では、年内1回以上の利下げを織り込む確率が9割を超えました。JPモルガンのアナリストなどは、9月と12月の利下げを具体的に予想しています。つまり、関税という「毒」に対して、金融緩和という「薬」を市場が催促している構図なのです。
今後の焦点はFOMCへ
もちろん、ライトハイザー通商代表やムニューシン財務長官がメキシコ関税に反対しているとの報道もあり、実際に関税が発動されるかは流動的な面も残されています。しかし、通商政策を巡る不透明感が簡単に払拭されることはないでしょう。2019年6月18日から19日にかけて開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)に向け、市場はFRBに対して、景気を下支えするための具体的なアクションを求め続ける展開になりそうです。私たちは今、政治リスクと金融政策の綱引きを、固唾を呑んで見守る必要があります。
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