住宅設備大手、LIXILグループに激震が走ったあの日から数ヶ月。2019年06月25日に開催された定時株主総会という大舞台を経て、瀬戸欣哉氏が最高経営責任者(CEO)の座へと鮮烈な復帰を果たしました。昨秋に前CEOの潮田洋一郎氏から事実上の解任を言い渡されるという苦境を乗り越え、再び舵取りを担うことになったのです。瀬戸氏は自身の歩みを振り返り、常に「逃走」ではなく「闘争」の道を選んできたと語ります。その言葉通り、今回の復帰劇はまさに信念を貫いた戦いの結末といえるでしょう。
瀬戸氏は、工具などの通販サイトを運営するMonotaRO(モノタロウ)を起業し、成功を収めた稀代の経営者です。解任後には、名だたる著名企業からリーダーとしての勧誘が相次いだといいます。しかし、彼はその輝かしいオファーを断り、あえて茨の道であるLIXILへの復帰を目指しました。その背景には、自身の解任プロセスを正当化しようとする会社側の検証報告書に対する、強い憤りがあったようです。「事実究明ではなく言い訳に過ぎない」と感じた彼の闘争心に、再び火が灯った瞬間でした。
「正しいことをする」という信念が覆した絶望的な下馬評
一般的に、こうした経営権を巡る争いでは、現職の会社側が圧倒的に有利とされています。瀬戸氏にとっての追い風は決して強くありませんでした。特に、株主の投票行動に大きな影響力を持つ「議決権行使助言会社」の2社が、彼の取締役再任に反対票を投じるよう推奨したことは大きな衝撃でした。これらの会社は、株主の代わりに議案を分析し、賛否のアドバイスを送る専門機関です。彼らは瀬戸氏の経営能力や過去の業績目標の未達を懸念材料として挙げ、復帰に否定的な見解を示していました。
四面楚歌ともいえる状況下で、瀬戸氏が心の拠り所としたのは、彼自身が掲げた「DO THE RIGHT THING(正しいことをする)」という行動指針でした。これは企業の透明性を高め、社会に対して誠実であるべきだという、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の根本を問う姿勢です。企業統治とは、会社が一部の権力者の私物化を防ぎ、株主や顧客のために健全な経営が行われるよう監視する仕組みを指します。瀬戸氏は、この「正しさ」を自分に問い続け、泥沼のプロキシファイト(委任状争奪戦)を戦い抜きました。
SNS上では、この劇的な展開に多くのユーザーが反応しています。「まるで池井戸潤のドラマを見ているようだ」「日本の古い企業体質が変わる転換点になるのではないか」といった応援の声が目立ちます。特に、創業家との対立を恐れずに正論を貫く姿勢に対して、現役のビジネスパーソンからは熱烈な支持が集まっているようです。一方で、「混乱が長引くことで現場の従業員が疲弊しないか心配だ」という冷静な意見も見受けられ、世間の注目度の高さが伺える事態となっています。
コストカッターの異名を持つリーダーが直面する今後の課題
瀬戸氏の実力は、数字が証明しています。前回の社長就任時である2016年には、海外子会社の不正会計によって巨額の赤字に陥っていた組織を、徹底的なスリム化で立て直しました。不採算事業の売却や経営陣の刷新を断行し、2018年03月期には純利益545億円という過去最高益を叩き出した実績があります。こうした手腕から、彼は「短期間で利益を出すコストカッター」として高く評価されています。しかし、今回の再登板では、単なるリストラを超えた成長戦略が求められるでしょう。
一部の市場関係者からは、瀬戸氏の手法が「縮小均衡型」になるのではないかという懸念も囁かれています。これは、無駄を削ることに集中するあまり、将来への投資が疎かになり、事業規模がじりじりと小さくなってしまう状態を指します。「起業家としては一流だが、大企業の持続的な発展には不向きではないか」という厳しい視線も存在するのが現実です。イタリアの建材子会社ペルマスティリーザの売却問題や、国内の主力事業であるサッシ部門のテコ入れなど、解決すべき難題は山積しているといえます。
私個人の意見としては、今回の瀬戸氏の復帰は、日本のコーポレート・ガバナンスの歴史において極めて重要な意味を持つと考えています。不透明なプロセスで経営者が排除される旧態依然とした体質に、株主の意思という民主的な手続きでNOを突きつけた意義は大きいでしょう。しかし、本当の勝負はこれからです。単に「正しいことをした」という達成感に浸るのではなく、それが企業の持続的な価値向上に繋がることを、具体的な数字とビジョンで示す責任が彼にはあります。
2019年07月05日現在、LIXILの「第2章」は幕を開けたばかりです。海外市場での競争力強化や、ガバナンスのさらなる高度化など、瀬戸氏が挑むべき壁は高くそびえ立っています。一度は解任の憂き目に遭いながらも、株主の支持を背景に返り咲いた不屈のリーダーは、この巨大組織をどのような未来へと導くのでしょうか。彼の「闘争」が、日本の住宅産業にどのようなイノベーションをもたらすのか、その一挙手一投足から今後も目が離せそうにありません。
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