なぜ景気の良さを実感できないのか?2019年の「低空飛行」な景気回復と可処分所得の現実

2019年07月05日現在、日本の経済は「戦後最長」とされる景気回復の真っ只中にあります。しかし、私たちの日常を振り返ってみて、本当に景気が良いと感じる場面はどれほどあるでしょうか。インターネット上のSNSを覗いてみても、「給料は増えないのに支出ばかりが膨らむ」「景気が良いなんてどこの国の話?」といった冷ややかな意見が散見されます。この統計データと肌感覚の乖離こそが、現在の日本経済が抱える最大の謎といえるかもしれません。

専門家の間では、2012年12月から続く現在の状況を「実感なき景気回復」と呼ぶ声が上がっています。これほどまでに長く回復が続いているとされながら、なぜ私たちの心は晴れないのでしょうか。その大きな要因の一つとして挙げられるのが、家計の豊かさを直結する「可処分所得」の伸び悩みです。可処分所得とは、給与などの収入から税金や社会保険料を差し引いた、いわば「自分が自由に使えるお金」を指しますが、この数字が思うように増えていないのが現状です。

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過去の「バブル景気」や「いざなぎ景気」との決定的な違い

景気の勢いを測る指標の一つに、物価変動の影響を除いた「実質成長率」があります。クレディ・アグリコル証券の森田京平氏の分析によると、かつての「バブル景気(1986年〜1991年)」では年率5.1%、昭和の高度経済成長を象徴する「いざなぎ景気(1965年〜1970年)」では年率10.9%という驚異的な成長を記録していました。これらと比較すると、現在の景気回復は年率1%台前半という非常に緩やかなスピードにとどまっていることが分かります。

いわば、かつての景気回復が「急加速するスポーツカー」だったのに対し、現在は「低空飛行を続けるプロペラ機」のような状態なのです。第一生命経済研究所の新家義貴氏は、2014年04月の消費増税から2016年02月にかけては停滞感が非常に強く、実態としては景気後退とみなされてもおかしくなかった時期が含まれていると指摘しています。このように、力強さを欠いたまま期間だけが経過していることが、実感のなさに拍車をかけているのでしょう。

米中摩擦の影と、見え隠れする景気のピーク

足元の情勢に目を向けると、さらなる不安要素が影を落としています。現在進行中の米中貿易摩擦の影響により、日本の輸出や生産には明らかな停滞が見られ始めました。大正大学の小峰隆夫教授は、実は2018年10月頃に景気はすでに頂点を迎え、現在は後退局面に入っている可能性があるとの見解を示しています。政府は「緩やかな回復」という判断を維持していますが、生産現場の数字は徐々に厳しいものへと下方修正されています。

ここで注目したいのが「潜在成長率」という言葉です。これは、その国が持つ設備や労働力などをフルに活用した際に、無理なく達成できる経済成長の基礎体力を意味します。現在の日本の潜在成長率は1%程度まで低下しており、政府がどれだけ財政政策で刺激を与えても、大きな経済の波が起きにくい体質になっていると考えられます。つまり、回復しているのか後退しているのかすら判別しにくい「凪」のような状態が続いているのです。

編集部からの視点:数字よりも「心の豊かさ」が問われる時代へ

筆者個人としては、もはや従来のGDPや成長率といったマクロ経済の指標だけで、国民の幸福度を測ることは限界に来ていると感じています。可処分所得が増えない中で、消費者は将来への不安から財布の紐を固く閉ざさざるを得ません。SNSで交わされる「実感がない」という声は、単なる愚痴ではなく、生活者の切実な生存戦略の現れではないでしょうか。数字上の「回復」という言葉に踊らされず、より生活に密着した支援が求められています。

今後は、単なる経済規模の拡大を目指すのではなく、一人ひとりの手取り額が増え、将来への希望を持てるような仕組みづくりが不可欠です。低成長という「ニューノーマル(新しい常態)」を受け入れた上で、いかにして質の高い暮らしを実現していくか。2019年07月05日の今日、私たちは大きな転換点に立たされているのかもしれません。政府の発表する景気判断と、スーパーのレジで感じる物価の重み。この二つの距離が縮まる日が来ることを切に願っています。

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