私たちの老後を支える大切な公的年金が、今大きな転換期を迎えています。世界最大級の機関投資家として知られる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2019年07月05日、昨年度の運用状況を公表しました。その中で最も注目を集めたのが、環境・社会・企業統治を重視する「ESG投資」の残高が3兆5000億円にまで達したというニュースです。これは前年度と比較して約2.3倍という驚異的な伸び率であり、投資の世界に新しい風が吹いています。
ここで注目される「ESG投資」とは、目先の利益だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)という3つの視点から企業を評価する手法を指します。例えば、二酸化炭素の排出削減に取り組んでいるか、女性の活躍を推進しているか、あるいは不祥事を防ぐ管理体制が整っているかといった点がチェックされます。SNS上では「ギャンブルのような投資ではなく、社会を良くする企業を応援してほしい」といった期待の声が上がる一方で、「本当に利益が出るのか」という慎重な意見も散見されます。
2019年03月末時点でのGPIFの総資産は159兆2154億円にのぼり、まさに世界を動かす巨象といえる存在でしょう。2018年度全体の運用実績としては、約2兆4000億円の黒字を確保することに成功しました。しかし、米中貿易摩擦などの影響で世界的に株価が激しく上下したこともあり、運用の利回りは1.52%に留まっています。目標としていた1.92%には届かず、高橋則広理事長も「ボラティリティ(価格の変動幅)が非常に激しい、忍耐の必要な1年だった」と苦しい胸の内を明かしています。
企業の規律を正すESGの力と長期的な安定成長への道筋
GPIFがこれほどまでにESG投資に力を入れる理由は、それが市場全体の底上げに直結すると考えているからです。これまでは東証株価指数(TOPIX)のように、市場全体を丸ごと買う投資が主流でした。しかし、あえて「女性活躍」や「炭素効率」に優れた企業を厳選して投資することで、企業側に経営の質を高めるよう促しているのです。健全な経営を行う企業が増えれば、長期的には株価の安定や配当の増加が期待でき、巡り巡って私たちの年金原資を守ることにつながるという論理です。
専門家によれば、この動きは民間の投資家にも波及しており、2019年06月に開催された株主総会では、不祥事を起こした企業に対して厳しい態度を示す投資家が目立ちました。個人的な見解を述べさせていただければ、年金運用は数十年単位の超長期戦であり、目先の浮き沈みに一喜一憂すべきではありません。環境や社会を無視して短期的な利益を追う企業は、将来的に必ず大きなリスクを抱えます。そうした意味で、持続可能性を重視するESGの視点は、今の時代に最も適した戦略であると確信しています。
最近では「老後資金2000万円不足問題」が世間を騒がせ、公的年金に対する国民の不安や関心はかつてないほど高まっています。2018年度の国内株式運用では約2兆円の損失が出たという厳しい現実もありますが、ESG投資の効果は短期間で現れるものではありません。大切な資産をどのように育て、守っていくのか。GPIFには、数字の裏側にある投資の意義や社会的価値について、私たち国民が納得できるよう、これまで以上に丁寧で透明性の高い説明を尽くしてほしいと願っています。
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