2019年6月1日現在、長野県内の企業で、サービスの値上げが相次いでいる状況にあります。その最大の背景には、深刻な人手不足があり、これにより人件費や人材育成にかかる研修費などがかさみ、企業が料金への転嫁を余儀なくされているのです。このコスト増は、バス業界や警備業など、多岐にわたる業種で顕著に見られ、このまま県内の求人倍率が高い水準で推移し続ければ、今後さらに値上げの動きが加速していく可能性が高いでしょう。
特に交通機関では、生活に直結する路線での運賃改定が注目を集めています。例えば、アルピコ交通(長野県松本市)は、2019年6月1日より高速バスの長野―京都・大阪線の運賃を引き上げています。長野駅から京都駅までの運賃は、以前より200円から300円上がり、5,700円から7,100円の範囲になる見込みです。同社はさらに、2019年6月10日には、長野―松本線を含む4路線での値上げも予定されています。
この運賃改定の主要な原因は、やはり運転手不足です。企業側は、運転手を確保するために待遇の改善が不可欠となり、また、人材募集のための広告費用も増加しています。加えて、燃料費の上昇という要因も重なり、値上げが避けられない状況だと判断されたのでしょう。同様に、長電バス(長野市)も2019年6月には、長野―池袋線や長野―新潟線などで値上げを実施します。例えば、長野駅前―新潟駅前間の運賃は210円上がり、3,500円になる計画です。
長電バスは、2019年から、運転手採用時に大型二種免許の所有者に対して支度金(採用時に支給される一時金)を支払う制度を導入するなど、人材確保に努めていますが、定年退職者の補充などで必要な人員を確保できていません。その結果、2019年4月には、長野市内の路線バス「運動公園線」の土曜・休日の全便運休という苦渋の決断をされました。平日は10便以上を運行しているため、「平日よりも、土曜・休日の方が利用客への影響を抑えられるのではないかという考えだった」と、同社は説明しています。
このような人手不足に起因する値上げの動きは、バス業界にとどまりません。2019年4月時点の長野県内の新規求人と求職者数の業種別データを見ると、「保安」の分野が最も人数の差が大きく、求人393人に対して求職者36人と、求人倍率はなんと10.91倍に達しています。この求人倍率とは、「求職者1人あたりに何件の求人があるか」を示す指標で、値が高いほど人手不足が深刻であることを示しています。この他にも、「建設・採掘」(5.45倍)、「サービス」(3.38倍)、「輸送・機械運転」(3.08倍)といった業種も高倍率となっており、これらの分野で値上げの動きが目立っているのが実情です。
人手不足は警備・清掃業にも深刻な影響を与えています
警備業界でも、人件費高騰の影響が出ています。しなの警備保障(長野市)は2019年4月、警備料金を引き上げました。例えば、雑踏警備員(イベント会場などで混雑を整理する警備員)の場合、基本単価(休憩1時間を含む拘束9時間)を1,000円アップさせ、18,000円に改定しています。また、ダスキンのフランチャイズチェーン(FC)に加盟するエヌシーエス(長野県小諸市)も、人件費の上昇を理由に、台所や浴室、エアコンなどのクリーニング料金を約7パーセント程度値上げしました。具体的な例として、間口3メートル未満の台所の標準料金は、17,280円から18,360円になっています。
しかしながら、料金の値上げをしたからといって、人手不足がすぐに解消されるわけではありません。エヌシーエスの中野信之社長は、「若い人をなかなか採用できない。身体を動かす仕事であるため、特に厳しいのだろう」と語られています。パート従業員は時給を上げても応募が集まりにくい上に、正社員を採用しても早期に退職してしまうケースも見られます。同社の営業地域は県内全域ですが、特に軽井沢を含む東信地区(長野県東部の地域)を重点地域としており、別荘を訪れる人が増える時期に合わせて「別荘クリーニング」も手掛けています。特に軽井沢では、人材の奪い合いになっているとのことで、競争の激しさがうかがえます。
増税前の長野経済と私の見解
長野県経営者協会の山浦愛幸会長は、2019年5月29日の定時総会で、県内の景気の現状について「今のところは急激な落ち込みは見せていない」という見解を示されています。しかし、2019年10月には消費増税が予定されており、人手不足によるコスト増が値上げを招くという流れがさらに広がると、景気の先行きの不透明感(将来の見通しがはっきりしない状況)は一段と増すでしょう。
このような現状を見ると、私は、企業がサービス価格に人件費の上昇分を適切に反映させることは、企業努力の限界を超えた環境変化に対応するための正当な判断であると考えます。サービス品質を維持し、従業員への待遇を改善することは、持続可能な事業運営には不可欠です。消費者としては、一時的な出費増を感じるかもしれませんが、この値上げは、私たちが日々の生活で受けているサービスを将来にわたって維持するためのコストであると理解すべきでしょう。運賃や料金の値上げという形でコスト負担が可視化されることで、労働力の価値について改めて考えるきっかけにもなると言えます。
SNSでの反響と今後の展望
今回の信州での相次ぐ値上げの報道は、SNS上でも大きな反響を呼んでいます。多くのユーザーからは、「人手不足は深刻で当然の値上げ」「生活が大変になるが仕方ない」「日本のサービスは安すぎるのかもしれない」といった、値上げに一定の理解を示す声が見受けられます。一方で、「バスの運休は困る」「生活必需品のサービスが上がると家計が苦しい」といった、生活への影響を懸念する声も多く寄せられています。
特に地方では、路線バスが「生活の足」として社会インフラ(生活や産業を支える基盤)の役割を担っています。運転手の待遇改善は急務ですが、そのコストを運賃に転嫁し続けると、利用者が減少し、さらなる路線維持の危機を招くという負の連鎖に陥る危険性があります。企業は、値上げによる一時的な収入増だけでなく、AIやロボットによる業務効率化など、長期的な視点での人材確保・コスト削減策を、並行して進めていく必要があるでしょう。また、地方自治体による公共交通機関への支援強化も、今後ますます重要になってくると私は考えます。
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