2019年6月1日時点において、北陸三県の宿泊施設で、思い切った「休業日」を設定する動きが広がっています。この背景にあるのは、北陸新幹線が開業して以降、観光客が増加し宿泊施設が急増したことで、特に接客分野における人手不足が非常に深刻化している現状があるからです。老舗旅館を筆頭に、各施設は単に人手を確保するだけでなく、働く人々の労働環境を改善することで、人材を定着させ、サービスの質と生産性の向上を目指しているのです。
石川県の和倉温泉に位置する加賀屋は、今年度から県内で運営する5つの施設で、年間を通じて休業日を設けることを決定いたしました。具体的には、七尾市の加賀屋やあえの風など4カ所、そして金沢市の金沢茶屋の合計5つの旅館で、それぞれ年間12日の休業日を設定するとのことです。これらの施設が輪番で休業することで、予約状況を考慮しつつ閑散期に休みを取り、加賀屋だけでも約200名もの客室係やフロントスタッフが休養を取れるように配慮されています。
この取り組みは、昨年から試験的に導入されていましたが、働き方改革関連法案の施行に合わせて本格実施に踏み切ったものです。担当者は「人材確保と同時に、生産性の向上にも取り組む」とコメントしており、休業日を利用して施設の修繕工事なども行う予定です。休業中の宿に予約の問い合わせがあった場合には、可能な限り別の宿を紹介するなど、顧客への対応にも細やかな工夫を凝らしている点が注目されます。
富山県の宇奈月温泉にある旅館「桃源」(黒部市)では、さらに先駆けて3年前には3月末から4月上旬にかけて10連休を導入しています。さらに2年前からは12月から3月までの平日に、予約状況を見ながら2日連続の休業日を設けているとのことです。従業員42名を抱える桃源の石田唯一社長は、「従業員のモチベーションが一層上がった」と、その効果を実感されています。
また、より小規模な宿においても、労働環境改善の動きは浸透しています。石川県加賀市の山中温泉にある旅館「こおろぎ楼」は、今春から比較的宿泊予約が少ない毎週水曜日を休館日としました。ここはわずか7室で、渓谷の眺望ときめ細かなサービスを売りとする旅館です。従業員8名という少人数体制で、客室、接客、厨房回りなど一人ひとりが多くの業務を兼任しているため、優秀な人材をつなぎとめるために労働環境の改善は喫緊の課題だったと言えるでしょう。
働き方改革と生産性向上を実現した好事例
休業日の導入に加え、徹底した合理化で収益を改善し、昇給まで実現したのが福井県あわら市の「ホテル八木」です。同ホテルは2018年9月から月2~3日の休館日を設けました。前日の宿泊客が帰る午前11時ごろから翌々日のチェックインまで、丸一日以上を休業日としています。この間は電話やメールの応対も行わないという徹底ぶりです。
同ホテルでは、2015年から人手不足に対応するために生産性向上を進め、宴会の取りやめや、夕食をすべてバイキング形式に変更、さらには部屋での布団敷きサービスも廃止するなど、業務のあり方を根本から見直しました。その結果、以前はパートを含め100名ほどいた従業員を半分以下に減らしても対応できる体制を構築できたのです。効率化で生まれた時間を活用し、従業員が食材を直接買い付けるなどしてコスト削減も図っています。
休館日を導入した後も、売り上げは減ることなく、営業利益は増加するという驚くべき成果を上げています。さらに、今期からは従業員の昇給も実施しており、まさに人手不足という難題を、働き方の見直しと生産性向上という好機に変えた事例と言えるでしょう。この一連の取り組みは、多くの宿泊施設にとって示唆に富むものでしょう。
人手不足の現状とSNSの反響
北陸三県の労働局のデータからも、宿泊サービス業界の深刻な人手不足が裏付けられています。2019年4月の「接客・給仕の職業」の有効求人倍率は、石川県で7.6倍(全職業は1.73倍)、福井県で5.88倍(同1.79倍)、富山県で5.44倍(同1.74倍)と、他の職業に比べて非常に高い水準です。賃金を引き上げる動きも見られますが、優秀な人材の確保は依然として困難な状況にあります。
このような状況下で、老舗旅館などが休業日を導入し始めたことに対し、SNS上では「良いことだ」「従業員が気持ち良く働ける環境こそ、最高のサービスにつながる」といった好意的な意見が多く見受けられます。一方で、「せっかく旅行に行っても休館日だと残念」「予約が取りにくくなるのではないか」といった、消費者側の懸念の声も一部存在しています。
石川県旅館ホテル生活衛生同業組合の担当者は、「ホテルラッシュが続く金沢を中心に人手不足が深刻化しており、休業日だけでなく、従業員寮や子供を預ける保育園などの整備も重要だ」と指摘しています。人手不足を単なるピンチで終わらせるのではなく、従業員の待遇改善や生産性の向上につなげ、持続可能な宿泊産業へと変革していくための新たな挑戦は、今後も全国的に広がっていくことでしょう。
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