不動産業界の雄、大京は、新築マンション市場の低迷が続くなか、新たな道を切り開いています。2019年5月30日に公開されたこの記事では、当時の小島一雄社長へのインタビューを通じて、同社が掲げる独自の戦略が明らかになりました。特に注目されるのは、2019年1月に大京を完全子会社としたオリックスとの強固な連携、そして、従来の大型開発とは一線を画した、街の「伸びしろ」に着目する姿勢です。現在の分譲マンション市場は、土地代よりも工事費の高騰が価格上昇の大きな要因となっており、今後もこの傾向は容易に変わらないだろうと小島社長は見通していました。
この価格高騰の波は、購入者の収入を考えると、特に首都圏でのマンション購入者を限定的なものにしつつあると分析されています。しかし、需要は多様化しており、共働き世帯をターゲットとした利便性を追求した物件や、都市部で増加傾向にあるコンパクトマンション、具体的には30平方メートル前後の住居へのニーズが高まっています。一方で、あまりにも需要が多岐にわたるため、開発業者(デベロッパー)が個々のライフスタイルの変化に合わせた住宅を供給することの難しさも増しているという認識が示されていました。
大京が今後も販売の中心と据えるのは、やはり首都圏です。しかし、その戦略は単に需要の「ある場所」を追うのではなく、「長い目で見て伸びしろがある街を見極めること」に重点が置かれます。かつては横浜や東京西部が開発の中心でしたが、今では例えば東京東部の北千住周辺のように、交通の便が良く住みやすい街へと意外な移り変わりを見せている場所があるのです。一見するとビルばかりに見える場所でも、マンション開発が始まれば、それに伴い飲食店やスーパーなどが集積し、住みやすい街へと進化していく、という洞察が述べられています。
販売戸数については、適地の不足や首都圏の厳しい要望から、今後は緩やかに減少していくとの見通しでした。かつてのような「首都圏で8万戸」といった目標は現実的ではないと考えているようです。ただし、足元の景況は想定していたほど悪化しておらず、大手デベロッパーが市場の半分以上を手掛けていることもあって、過度な値引き合戦も発生していないため、市場は底堅い状況にあると捉えられていました。私が編集者として注目したいのは、小島社長が指摘した住宅ファイナンスの課題です。正規雇用でなければ住宅ローンを組みにくい現状は、多様化する働き方や外国人居住者の増加といった社会の変化に合っておらず、「不便な人はたくさんいる」という見解は、今後の住宅市場を考える上で非常に重要な視点でしょう。
オリックスとの協奏:大手とは異なる「総合不動産」の道
完全子会社化によって連携を深める親会社オリックスとの関係構築も、大京の今後の命運を握る鍵です。2019年4月には、開発や仲介などの実務担当者レベルで協働を探る7つのワーキンググループが立ち上げられ、具体的なシナジー創出に向けた検討が進められていました。大京はマンションの仕入れから管理・仲介まで一気通貫のバリューチェーン(価値の連鎖)を持っているのに対し、オリックスはオフィスや商業施設、物流など「広く浅く」多岐にわたる事業が主力です。一部の機能で横串を刺すことで、実務レベルで何ができるかを検討する段階だとしていました。
特に具体的な連携の例として挙げられたのは、オリックスで進行中の改修・建て替え案件への大京の参画や、金沢駅前の再開発案件におけるオリックス(ホテル担当)と大京(マンション担当)の協働です。このような案件を今後さらに緊密に進めることで、「総合不動産のような形にはなるが、大手とは違う路線を歩まなければならない」という強い決意が示されていました。長期的には、不動産と金融の相性の良さを活かした連携や、海外展開の可能性も検討されています。
価格高騰への対抗策:高付加価値戦略とSNSの反響
国内の新築マンション市場が低調を続ける中、大京は「高付加価値」をキーワードに対抗策を打ち出しています。不動産経済研究所のデータによると、2019年4月の首都圏新築マンション発売戸数は前年同月比で約4割減の1,421戸となり、バブル崩壊後の1992年以来27年ぶりの低水準を記録しました。背景にあるのは、1戸あたりの平均価格が5,895万円にまで上昇し、特に東京23区内などで上昇幅が大きいという、価格の高止まりです。
これに対し、大京が提供する高付加価値マンションの例として、「ライオンズ蒲田レジデンス」(東京都大田区)ではAI(人工知能)を活用したマンション管理システムを導入し、「ライオンズ芦屋グランフォート」(兵庫県芦屋市)ではZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)に対応し、消費エネルギーを75%削減できる設計を採用しています。ZEHとは、高い断熱性能と省エネ設備により、家庭で消費するエネルギー量と、太陽光発電などで創り出すエネルギー量が年間で概ねゼロ以下になる住宅のことを指す専門用語です。価格は高いままでも、このような利用者のニーズに沿った先進的な機能を提供することで、購入するメリットをいかに消費者にアピールできるかが、同社の今後の販売戦略の鍵となります。
当時のSNSでは、マンション価格高騰の話題は常に熱い議論の的となっていました。「給料は上がらないのに、マンション価格だけ上がっていく」といった嘆きの声や、「AI管理システムやZEHは魅力的だが、手の届かない価格では意味がない」といった厳しい意見も見受けられました。しかし一方で、「将来のエネルギーコストを考えればZEHは魅力的」「コンパクトマンションは都心で働く共働き世帯には合理的だ」と、大京が提供する機能やコンセプトを評価する肯定的な反響も多く、高付加価値路線の方向性自体は、一定の支持を得ていると言えるでしょう。小島社長が言うように「購入できる人が少なくなっている」という現実があるからこそ、価格が高くても購入に踏み切らせるほどの「納得感」を与えることができるかが、大京の挑戦の核心にあると考えられます。
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