2019年という年は、日本の雇用環境にとって大きな転換点として記憶されることになるかもしれません。人手不足が叫ばれて久しい昨今ですが、驚くべきことに大手上場企業では定年前の退職を促す「早期退職」の募集が相次いでいます。東京商工リサーチなどの調査によれば、2019年01月01日から2019年06月30日までのわずか半年間で、早期退職の実施を公表した企業は17社に達しました。
特筆すべきはその規模感であり、対象となる人数は合計で約8200人にものぼります。この数字は、2018年の一年間を通じて募集された人数をたった半年で上回るという、極めて異例のペースで推移しているといえるでしょう。かつてのような「業績悪化による背に腹は代えられないリストラ」とは異なり、現在は企業が体力を残しているうちにメスを入れる「先行型」の施策が目立っているのが大きな特徴です。
この急激な変化に対し、SNS上では「もはや終身雇用の崩壊が現実味を帯びてきた」「黒字なのに辞めさせるなんて非情だ」といった不安の声が広がっています。その一方で、「若手への世代交代は避けられない」「自分のスキルを磨かなければ生き残れない時代になった」と、冷静に現実を受け止める意見も少なくありません。多くのビジネスパーソンが、企業に依存しないキャリア形成の重要性を痛感し始めている様子が伺えます。
なぜ好調な企業までもが、多額の割増退職金を支払ってまで人員削減を急ぐのでしょうか。その最大の理由は、ビジネスの根幹を揺るがす「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」への対応にあります。これはIT技術の浸透によって人々の生活やビジネスモデルを根本から変革することを指す専門用語ですが、現在の企業はこの変化に対応できる、デジタルネイティブな感性を持つ若手人材を喉から手が出るほど欲しているのです。
特に製薬業界をはじめとする業績好調な企業ほど、この「人員の適正化」に積極的な姿勢を見せています。これは将来の市場環境の変化を先読みし、従来の営業スタイルや旧来の組織構造を維持することに危機感を抱いているからに他なりません。中高年層が積み上げてきた経験よりも、ITを駆使して新しい価値を創造できる能力を優先するという、残酷ながらも極めて合理的な経営判断が下されていると考えられます。
私自身の見解を述べさせていただきますと、この流れは単なる人員削減ではなく、日本型雇用の構造改革そのものであると感じます。かつての「年功序列」という安全神話は、急速なテクノロジーの進化の前ではもはや維持不可能なコストとなってしまいました。企業が生き残るために若返りを図るのは自然な流れですが、同時に経験豊かな世代が培ってきた知見をどう再活用するかが、今後の社会全体の大きな課題になるでしょう。
2019年07月07日現在、この早期退職の波はさらに拡大する兆しを見せています。働く側にとっては厳しい冬の時代の到来のようにも見えますが、これは同時に「会社という枠組み」から解き放たれ、自分自身の価値を問い直すチャンスであるとも捉えられないでしょうか。これからの時代を生き抜くためには、組織に守ってもらうことを期待するのではなく、常に学び続け、変化に順応するしなやかさが不可欠になると確信しています。