📚【池上彰の働き方指南】地方勤務をチャンスに!AI時代を生き抜く無駄のない経験値の積み方

働くことの意義を見つめ直す連載コラム「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」から、今回は働き始めたばかりの若者や、就職活動に取り組む皆さんに贈る、人生のアドバイスを分かりやすく再構成してお届けしましょう。配属先が希望と異なり、もし地方勤務になってしまい、少し残念な気持ちでいる新入社員の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、視点を変えてみると、それは仕事の本質を知るための、またとない大きなチャンスと捉えられるのではないでしょうか。

私自身の経験からも、この考えは裏付けられています。これまでも講演やコラムでご紹介してきましたが、私は大学卒業後に島根県と広島県で記者生活を経験しました。地方での勤務を強く希望していたわけではありませんが、この中国地方での記者としての活動が、その後の東京での社会部における取材活動に、非常に大きく役立つことになったのです。

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地方での経験がキャリアを築く土台となる理由

例えば、島根の松江放送局にいたときは、警察や検察、裁判所といった司法・治安機関から、市役所、県庁、さらには日本銀行(日銀)、農業協同組合(農協)に至るまで、文字通り幅広く取材を担当できました。東京のように記者の人数が多くはないため、政治、経済、社会の基本的な仕組みを体系的に学ぶ貴重な機会となりました。この地方都市を一つのサンプルとして取材し尽くしたことで、日本という国の縮図を深く理解できたと感じています。

また、広島県の呉通信部で勤務していた時期には、事件の取材から映像の撮影まで、すべてをたった一人でこなさなければなりませんでした。これは想像を絶する大変な苦労でしたが、カメラマンの仕事も兼ねたことによって、映像制作に必要なコツやセンスが磨かれ、それが現在の私の仕事にも結実しています。さらに、あの地で被爆者の方々への取材を重ねた経験が、今も毎年8月6日に広島の平和記念公園から中継を担当する仕事へとつながっているのです。

地方での勤務は、あなたの知らない世界を大きく広げ、仕事に必要な実力を徹底的に鍛える絶好のチャンスといえるでしょう。大都市である東京を離れることに寂しさや残念な気持ちがあるかもしれませんが、初めて訪れる土地で、その地域の生活や文化に根差して働けるというのは、実に貴重な経験なのです。ぜひ、その機会を前向きに捉えてください。

日本経済の多様な側面とIT・AIがもたらす大変革期

地方で働くことによって、東京だけが日本経済を支えているわけではない、という大切な発見があることにも気づかされます。世界から注目されるような卓越した技術力や、独創的なアイデアを持つ有力な中小企業は、大都市圏だけでなく、地方にも数多く存在するからです。特に近年(2019年6月3日時点)、地方の観光地には大勢の外国人観光客が押し寄せています。地元の観光地や豊かな食の魅力をテコ(梃子:ある力を増幅・転化させるための道具や手段のこと)として、新しいサービスや革新的な商品を生み出す大きな可能性があるのです。

私自身の経験から導き出された信念として、「人生において、決して無駄な経験などない」ということがあります。仕事の担当分野が大きく変わったり、これまでにない新たな取引先を開拓したりと、キャリアの中ではさまざまな場面に遭遇するでしょう。そんなとき、これまでの人生で懸命に学んだこと、そして現場で経験したことのすべてが、必ずあなたの将来の糧となってくれるはずです。残念ながら、そうした人生の貴重な経験を、あらかじめマニュアル化してすべて準備しておくことはできません。たとえ失敗だと感じた経験でさえも、それは立派な貴重な経験値となるでしょう。

その上で、皆さんに特に注目していただきたいのは、日進月歩で進む技術革新の波です。具体的にはIT(情報技術)や、人間に似た知的な処理をコンピューターに行わせるAI(人工知能)の進化が挙げられます。これらは単なる一過性のブームなどではなく、経済や社会の仕組みそのものを根本から変えてしまう、まさに大変革期が到来しているのです。例えば、平成という時代には、子どもたちも熱狂的にあこがれる新しい職業として「ユーチューバー」が社会に登場しました。そして、まもなく次世代通信規格「5G(ファイブジー)」による、これまでにない新しいサービスも社会に浸透し始めるでしょう。

変化の時代に必要な情報感度と予測力

こうした時代の先をしっかりと読むためには、常に情報をキャッチするための「アンテナ」を張り巡らせ、その感度を最大限に高めておくことが不可欠です。インターネットがこれほどまでに普及した現代においては、情報という観点から見れば、大都市と地方都市との間に格差はほとんどないはずです。情報を掴む意識さえあれば、どこにいても最先端のトレンドを把握できます。

技術革新の大きな波は、皆さんの人生にも、そして仕事にも、計り知れない影響を及ぼすことになるでしょう。溢れるほどの膨大な情報の中から、あなたは何かしらの「意味」を見つけ出し、新たな変化を予測することができるでしょうか。それは、他でもないあなた自身にかかっています。この大きな変化の時代に備えるためにも、これまでのすべての経験を大切にしてほしいと私は願っています。大変なことも多いでしょうが、ぜひ頑張ってください。

(本記事は、池上教授が活動拠点としている東京工業大学のキャンパス名に由来する「大岡山通信」として、2019年6月3日に日経電子版に掲載された記事を再構成したものです。)

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