「悲惨だが滑稽、野暮なんだけれどスタイリスト」――そんな特異な魅力を持つ作家・藤澤清造(ふじさわ せいぞう)の生涯を、作家の西村賢太(にしむら けんた)氏が丹念に追いかけた傑作評伝『藤澤清造追影』が、講談社文庫より税抜き680円で発売されています。藤澤清造は、大正時代に活躍した私小説作家です。私小説とは、作者が自らの体験や私生活をありのままに描く文学のジャンルで、日本の近代文学において重要な位置を占めています。しかし、彼は生前はほとんど文学界から評価されることなく、その最期は1935年(昭和10年)の寒い冬、東京の芝公園で凍死体として発見されるという、あまりにも悲劇的なものでした。
西村賢太氏は、藤澤清造の存在を知って以降、彼の作品と人生に深く傾倒し、自らを「歿後(ぼつご)の押しかけ弟子」と称しています。この「歿後の押しかけ弟子」という表現には、師と仰ぐ人物が生前は不遇であったことへの、弟子の強い想いと敬愛の念が込められているのが伝わってきます。西村氏の筆致は、藤澤清造という一人の孤独な作家の足跡を、事実に基づきながらも情熱的に辿っており、読者はその濃密な世界に引き込まれてしまうことでしょう。
私見ですが、西村氏の文学もまた、私小説という形式を通して、社会の底辺で生きる人々の悲哀や滑稽さを独自の文体で描き続けている点で、藤澤清造の精神を継承しているように感じられます。師弟関係を直接結ぶことのできなかった二人の作家の魂が、この作品の中で深く共鳴し合っていると言えるのではないでしょうか。
本書にはさらに、西村氏自身の東京という土地にまつわる随筆を集めた「東京者がたり」が同時収録されています。師である藤澤清造の生涯を追う旅路は、自然と弟子である西村氏自身の人生、特に東京という街との関わりを振り返る旅にもなっているのでしょう。東京の片隅で、不器用に、しかし懸命に生きた二人の作家の姿が、読者の心に強く訴えかけてくる内容となっています。
2019年6月8日に発売されたこの文庫版に対して、SNS上では早くも大きな反響が寄せられています。「西村賢太が描く藤澤清造は、悲劇的でありながらもどこかユーモラスで、読む手が止まらない」「『歿後の押しかけ弟子』という言葉に西村先生の熱意を感じる」といった感想が見受けられ、単なる評伝としてだけではなく、不器用な生き方を選んだ作家たちの魂の交流の物語として、多くの読者を魅了していることが伺えます。文芸ファンはもちろん、孤独や不遇な状況と向き合うすべての人に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
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