2019年11月29日の朝、愛知県蒲郡市にある名旅館「銀波荘」にて、囲碁界の歴史を塗り替えるかもしれない重要な一戦が幕を開けました。現在、四冠を保持する井山裕太王座(30歳)に対し、新進気鋭の芝野虎丸名人(20歳)が挑む第67期王座戦五番勝負の第4局です。ここまで第3局を終えた時点での成績は、芝野名人が2勝1敗とリードしており、悲願のタイトル獲得まで残りわずか1勝に迫る緊迫した状況となっています。
対局開始直前の午前9時55分に芝野名人が姿を現すと、その3分後には井山王座も静かに入室しました。立会人を務める山城宏九段の合図によって、午前10時ちょうどに熱戦の火蓋が切られたのです。井山王座は盤上の上辺で「向かい小目(むかいこもく)」という、布石の中でも戦略的な構えを選択しました。これは、盤上の特定の地点をあらかじめ確保し、自分にとって有利な展開に持ち込もうとする意欲的な姿勢の表れと言えます。
SNS上では、若き挑戦者が絶対王者を追い詰めているこの構図に、大きな注目が集まっています。「芝野名人の冷静沈着な打ち回しが、井山王座の強さを凌駕するのか」「王座の意地を見せてフルセットまで持ち込んでほしい」といった、囲碁ファンの熱狂的な声が次々と寄せられています。対局は開始からわずか1時間で50手を超えるという、異例のハイスピードで進行しており、両者の気合が盤上からひしひしと伝わってくるかのようです。
今回の序盤戦では、井山王座が「三々(さんさん)」へ潜り込む手法を駆使し、まずは実利、つまり目に見える陣地を先行して確保する戦略をとりました。対する芝野名人は、下辺から右辺にかけて大きな勢力を築き、力を蓄える「手厚い(てあつい)」形を作り上げます。手厚いとは、目先の陣地よりも将来的な戦いを見据え、石の繋がりを強固に保つことで反撃のチャンスを待つ、芝野名人得意のスタイルを指しています。
中央の主導権を巡る激しい読み合いの展開
対局は左上隅での白38をきっかけに、お互いの思惑が複雑に絡み合う小競り合いへと発展しました。井山王座は左上の白石の一団を鋭く狙いながら、中央に向けて黒石を伸ばし、盤面全体のコントロールを試みています。解説を担当する中野寛也九段は、この序盤の攻防を「非常に激しい気合の応酬」と表現されており、左上の戦いが中央での主導権争いに直結する、極めて難解な局面に入ったことを指摘されました。
私個人の見解としては、現代の囲碁らしいスピード感と、伝統的な意地のぶつかり合いが融合した素晴らしい名局になると確信しています。AIの影響で変化の激しい現代碁において、自分の形を崩さずに最強の相手へ立ち向かう芝野名人の精神力には驚かされるばかりです。一方で、数々の修羅場をくぐり抜けてきた井山王座が、ここからどのような逆転劇を見せるのか、盤上の物語からは一瞬たりとも目が離せそうにありません。
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