煌びやかなカジノのネオンで知られる米国・ラスベガスの街を、一台の白いBMWが静かに疾走しています。驚くべきことに、車体には「SELF-DRIVING VEHICLE(自動運転車)」の文字があり、運転手はハンドルに触れていません。これは自動運転技術を手掛けるアプティブが展開するライドシェアサービスで、今や現地の新たな移動手段として大きな話題を集めているのです。
2018年にラスベガスへ進出したアプティブが、なぜこの地を拠点に選んだのでしょうか。同社のカール・イアグネマ社長によれば、最大の理由は、ラスベガスの統合型リゾート(IR)を舞台に毎年開催される、世界最大のデジタル技術見本市「CES」の存在です。この街が、単なる娯楽地から技術革新の拠点へと変貌を遂げていることを象徴するエピソードと言えるでしょう。
知が集まる街・ラスベガスの秘密
ここで注目すべきキーワードが「MICE(マイス)」です。これは、企業会議(Meeting)、企業などの報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会や見本市(Exhibition/Event)の頭文字をとったもので、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントを指します。ラスベガスでは年間2万4000件ものMICEが開催され、CESだけでも6日間で17万人もの人々が世界中から集結します。
このように「世界中の知」が定期的に一堂に会する環境は、先端企業にとって非常に魅力的です。自ら世界中へ営業に出向かずとも、現地にいれば自然とイノベーションにつながる交流の機会が得られるからです。こうした環境に惹かれ、ラスベガス市に拠点を置くスタートアップ企業の数は、この5年間で倍増し、現在約130社に達しています。
行政の巧みな誘致戦略とSNSの反応
地元行政の動きも非常に戦略的です。2012年に官民共同で設立された「ラスベガスグローバルエコノミックアライアンス(LVGEA)」は、MICEに参加する企業を綿密にリストアップし、開催前からアプローチをかけます。専門スタッフが実際にオフィス候補地や大学を案内し、人材採用のアドバイスまで行う手厚いサポート体制が、企業の進出を後押ししているのです。
SNS上でも、「カジノ=ギャンブルのイメージが強かったけれど、ビジネス都市としての側面を知って驚いた」「ただの観光地ではなく、いかにして知を集約させるかという仕組み作りが素晴らしい」といった驚きの声が上がっています。ラスベガスのIRにおける非カジノ事業の売上比率は、2018年には57%に達しており、ギャンブルに頼らない都市経営が見事に機能している証左といえるでしょう。
大阪が目指すべき「ハコモノ」の先にあるもの
この成功モデルを参考に、関西でも大阪府・市や和歌山県がIR誘致に名乗りを上げています。しかし、シンガポールのIR施設「マリーナベイ・サンズ」でMICEを担当するオン・ウィー・ミン氏は、「ハコモノをつくるだけではダメだ」と警鐘を鳴らします。国際会議場や展示施設といったインフラ整備はもちろん、ソフト面での戦略、特に専門人材の育成が不可欠というわけです。
私個人の考えとしては、IRにはギャンブル依存症や政治への不信感といった大きな影があるのも事実です。だからこそ、ただ収益を上げるだけでなく、ラスベガスやシンガポールの事例のように、その地域にどんな産業を根付かせ、どのようなイノベーションを生み出していくのかという「明確な目的」を住民に示し続ける必要があるのではないでしょうか。
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