🌈インドの秘境「カッチ」に息づく伝統の色彩!ミラーワーク、アジュラク…砂漠が育んだ美しき手仕事

インド西部グジャラート州に位置するカッチ地方。荒涼とした大地が広がるこの地は、一見すると色が少ないように感じられますが、そこには鮮やかな民族衣装を身にまとった女性たちの姿があり、不思議と活気に満ちています。ブージにあるLLDCミュージアムには、ラバリ族、ムトゥア族、メグワル族、アヒール族など、実に多様な民族の衣装が展示されており、その色使いや刺繍のバリエーションの豊かさに驚かされます。彼女たちにとって、衣服は単なるファッションではなく、土地の信仰や生活の知恵が縫い込まれた大切なものなのですね。

特に目を引くのが、衣服などに小さな鏡の破片を縫い付けるミラーワークという技法です。ギャラリーアテンダントのシヴァム・ガジャールさんによると、このミラーワークには「他人の嫉妬の眼差しから身を守る」という重要な意味が込められているそうです。市場では、このミラーワークの材料がごく日常的に売られており、カッチの人々の信仰心と生活が深く結びついていることがわかります。アヒール族の家にお邪魔すると、女性たちが土間で車座になり、鏡片をハサミで切ったり、瓦などにこすりつけたりして、一つひとつ丁寧に大きさと形を整えていました。年長の女性は、「まず星の形に縫って固定してから、周りを縫うと丈夫で仕上がりもきれいになるんですよ」と、1センチほどの鏡を縫い付けながら教えてくれました。

女性たちが賑やかに刺繍に励む時間は、彼女たちにとって家事を取り仕切り、外に出る機会が少ない中、気の置けない仲間や親族と情報交換をし、息抜きをする貴重な場にもなっています。その傍らでは、幼い女の子が母親の仕事を見て育ち、少しずつやり方を覚え、12歳頃から本格的に刺繍を学び始めるのだそうです。「みんなそうやってきたの。きっとこの子もね」という言葉には、伝統が脈々と受け継がれていく様子が垣間見えます。カッチ地方にこれほど多様な布文化が根付いている背景には、ヒンドゥー教によるカースト制も深く関係しています。例えば、染色の職人たちは今でも「染色に従事する人」を意味するカトリーという共通の名を持ち、イスラム教に改宗した後もこの名で同じ仕事を続けているのです。

ものが手に入りにくい農村地帯では、地元で使うものは地元で賄う必要があり、それぞれが専門職を持ち、助け合うことで生活が成り立ってきました。さらに、年間の平均降水量が300~400ミリと非常に少なく、土壌に塩分を含むという厳しい自然環境も大きな理由です。手工芸の研究を続ける国際ファッション専門職大学の金谷美和准教授は、「農業に向かないからこそ、人々は土地に依存しない生き方を選び、生きるために染め物や刺繍の技術を磨いてきた。狭い地域にこれほど多様な布が残っているのは世界的にも珍しい」と指摘されています。私もこの意見に賛同します。厳しい環境だからこそ、カッチの人々は知恵と技術を結集し、生活に根差した独自の文化を築き上げてきたのでしょう。

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🌐文化の十字路が育んだ独自のテキスタイル技術

カッチの布文化の豊かさは、イスラム世界との活発な交流によってもたらされました。この地方は16世紀に現在のパキスタンのスィンド地方からやってきた王の領土となり、その際に職人も移住し、多くの技術や意匠が伝わっています。既に触れたアジュラク工房のイスマイルさんや、絞り染めのアリフさんもルーツはスィンド地方にあるとのことです。また、カッチ地方は南をアラビア海に面しているため、古くから交易を通じた交流も盛んに行われました。現在ではインドの端にある辺境のように見えますが、歴史的には文化の一大交流地として栄えてきたのです。このような地理的・歴史的背景が、カッチのテキスタイルを唯一無二の魅力を持つものにしたと言えるでしょう。

しかし、悠久の時を超えて続いてきたこの手仕事にも、時代の変化の波は押し寄せています。イスマイルさんは、「安価な中国製の服やプリントが好まれ、地元での需要はほとんどない」と、伝統的な仕組みが崩壊しつつある現状を語っています。一方で、海外からの注目度は高まっており、その大きなきっかけとなったのが、2001年1月の大地震でした。金谷准教授は「地震後、支援活動で世界中の人がカッチに入ってきた。その中で、カッチのテキスタイルが再発見された」と述べています。その結果、暑さが和らぐ9月~2月頃には、布を求めて欧米を中心に数百人もの観光客が訪れるようになったそうです。伝統的な技術の価値が、グローバルな視点によって改めて見直されているのですね。

日本人の感性が、カッチの伝統工芸に新たな光を当て始めた事例もあります。向井詩織さんは、2015年にこの地を訪れてアジュラクに魅せられ、2018年に約半年間、イスマイルさんの工房に滞在して制作に挑戦しました。アジュラクとは、木版による型押しと藍や茜などの天然染料を用いた伝統的な捺染技法で、専門用語としてはブロックプリントの一種と説明できます。正確さが非常に重視されるアジュラクにおいて、スタンプが少しでもずれると「ゴミ」扱いされてしまうという厳しい現実の中で、向井さんは「ムラやかすれ、均一でないからこその手仕事ならではの魅力があってもいいのではないか」と、新しい価値観を提案しています。

「新しいデザインは、伝統的なデザインを置き去りにしてしまうのではないか」という問いに対して、イスマイルさんからは「変化を嘆くのではなく、対応していかなければならない。ほかにできることはないからね」という力強い言葉が返ってきました。カッチの人々は、これまでも多様な民族や文化を柔軟に受け入れて、その技術を磨き続けてきたのです。使う人やデザインが変わっても、染め物や刺繍は続いていくでしょう。頭上で燃える太陽が、きっとこの伝統技術を未来へと育んでいくに違いありません。この不朽の手仕事と、そこに宿る人々の思いが、これからも世界中の人々を魅了していくことを強く期待しています。

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