日本の製薬大手であるアステラス製薬が、医療の未来を左右する大きな賭けに出ました。同社は2019年12月03日、アメリカのバイオテクノロジー企業であるオーデンテス・セラピューティクスを、約30億ドル(日本円で約3200億円)という巨額の資金を投じて買収することを正式に発表したのです。このニュースが報じられると、SNS上では「ついに日本企業が遺伝子治療の本命に動いた」「3000億円超えの買収劇に驚きを隠せない」といった期待と驚きの声が次々と上がっています。
今回の買収の目的は、次世代医薬品の切り札とも称される「遺伝子治療」の高度な技術を手に入れることにあります。同日の記者会見に臨んだ岡村直樹副社長は、この分野におけるリーディングカンパニー、つまり業界を牽引するトップランナーを目指すという強い決意を表明しました。遺伝子治療とは、病気の根本的な原因となっている遺伝子そのものに直接働きかけ、治療用の遺伝子を体内に届けるという画期的な手法です。一度の投与で長期間の効果が期待できるため、まさに医療の常識を覆す可能性を秘めています。
買収の対象となったオーデンテス社は2012年に創業した新進気鋭のスタートアップで、特に「アデノ随伴ウイルス(AAV)」を用いた技術に長けています。この聞き慣れない用語は、治療に使う遺伝子を細胞内へ安全かつ効率的に運ぶための「運び手」のような役割を果たすウイルスのことです。アステラス製薬は、自社が持つこれまでの医薬品開発のノウハウに、この革新的な運び手の技術を融合させることで、新薬開発のスピードを劇的に加速させる狙いがあるのでしょう。
赤字でも未来を買う、アステラス製薬の勝負時
驚くべきは、オーデンテス社の現在の経営状況です。2018年12月期の売上高はゼロであり、最終損益は約1億2800万ドルの赤字を計上しています。それでもアステラス製薬は、同社の株価終値の約2.1倍にあたる1株60ドルという破格の条件で株式公開買い付け(TOB)を実施することを決めました。現在の数字だけを見れば無謀にも映りますが、これは目先の利益ではなく、数年後の爆発的な成長を見越した戦略的な投資であると断言できます。
同社の計画によれば、開発中の治療薬は2020年には米国で承認申請が行われ、2021年には待望の販売開始が見込まれています。岡村副社長も2023年3月期には黒字化する可能性があると自信をのぞかせており、未来のキャッシュフローに対する確固たる自信が伺えます。これまで数百億円規模の買収が中心だったアステラス製薬にとって、3000億円を超える規模の買収は2010年以来の出来事であり、同社が並々ならぬ覚悟で勝負に出たことが伝わってきます。
私自身の見解としても、この決断は非常に賢明かつ不可避なものだと感じます。世界中で新薬開発の競争が激化する中、自前主義にこだわらず、優れた技術を持つ海外企業を早期に取り込むスピード感こそが、グローバル競争を勝ち抜く唯一の道だからです。遺伝子治療という未開拓の領域で日本企業が主導権を握ることは、多くの患者さんにとっても一筋の光となるでしょう。数週間以内に始まる株式取得の手続きを経て、アステラス製薬がどのように世界を変えていくのか目が離せません。
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