2019年07月15日、特殊鋼倶楽部の新会長に就任した山陽特殊製鋼の樋口真哉氏が、業界の現状と今後のビジョンを語る記者会見を行いました。そこで明かされたのは、国内の特殊鋼生産量が4年ぶりに減少に転じるという、ショッキングながらも現実を見据えた予測です。2018年には2,080万トンを記録した生産実績ですが、今年度は2,000万トン程度に留まる見通しが示されました。この背景には、世界最大の市場である中国での自動車販売の冷え込みが影を落としています。
「特殊鋼」という言葉に馴染みがない方も多いかもしれませんが、これは鉄にクロムやニッケルなどの成分を加え、強度や耐熱性を極限まで高めた合金鋼のことです。まさに日本のモノづくりを支える「骨格」とも呼べる素材でしょう。SNS上では、この生産減のニュースに対し「世界経済の減速がじわじわと日本の基幹産業にまで及んでいる」といった懸念の声が上がる一方で、厳しい局面だからこそ次の一手に期待する声も多く寄せられています。変化の激しい時代において、鉄鋼業界も大きな岐路に立たされているようです。
成長分野への挑戦と「衰退」のイメージを打破する新戦略
樋口会長は、向こう2年の任期を通じて特殊鋼が持つ無限の可能性を世に知らしめる決意を固めています。特に注目しているのが、次世代のモビリティである電気自動車や、環境負荷の低い洋上風力発電といったクリーンエネルギー分野です。これらは特殊鋼の優れた耐久性が不可欠な「成長産業」に他なりません。平成の30年間で生産量が約3割も増加したという事実は、この素材がいかに現代社会から求められ続けてきたかを物語っていると言えるでしょう。
しかし、樋口氏は「特殊鋼は衰退産業である」という世間の誤ったイメージに強い危機感を抱いています。この固定観念を払拭するため、2019年度からは学生や若年層をターゲットにした大胆な認知向上活動を展開する方針です。具体的には、展示会への積極的な出展に加え、複数の大学でメーカー幹部が直接教壇に立つリレー講義などを計画しています。業界全体が直面する人手不足という深刻な課題を解決するには、まず若者たちの「心」を掴むことが先決であると考えているのでしょう。
私は、今回の樋口氏の姿勢を非常に前向きで戦略的なものだと感じました。単に数字を追うだけでなく、教育現場にまで踏み込んで業界の魅力を伝えようとする試みは、持続可能な産業を築く上で極めて重要です。デジタル化が進む現代こそ、特殊鋼のような本質的な「素材」の価値を再定義するチャンスではないでしょうか。2019年、特殊鋼業界は守りから攻めへと転じる大きなターニングポイントを迎えています。この挑戦が、日本の製造業に新たな活力を与えることを願って止みません。

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