日本のエネルギー産業を支えてきた石油元売り大手が、今まさに大きな転換点を迎えています。JXTGエネルギー(現・ENEOS)や出光興産といった企業が、従来の燃料販売に頼らない「機能材事業」へと軸足を移し始めました。ガソリンスタンドの減少や若者の車離れが進む中で、各社は生活に密着した新たな収益の柱を必死に模索しているのです。SNS上では「ガソリン会社がサプリメントを作るなんて意外」「時代の変化を感じる」といった驚きの声が多く上がっています。
2019年07月15日、業界最大手のJXTGエネルギーは、目を見張るような新事業を発表しました。なんと、微生物の力を借りて生成する「天然色素」をベースにした健康食品原料「アドニケア」の展開を開始するのです。この製品の鍵を握るのは「パラコッカス菌」という聞き慣れない細菌です。これは自然界に存在する微生物で、発酵というプロセスを経ることで、私たちの健康に寄与する貴重な成分を生み出してくれます。石油のプロたちが、バイオテクノロジーの領域へと果敢に飛び込みました。
もともとこの色素は、養殖されるサケの身を赤くしたり、鶏卵の黄身の色を鮮やかにしたりするための着色料として活用されていました。しかし、研究を進める過程で驚くべき事実が判明したのです。成分の構成を調整することで、脳機能の維持や強力な「抗酸化作用」を持つことが分かりました。抗酸化作用とは、体内の細胞を傷つける活性酸素を抑え、老化や病気の予防に役立つ働きのことを指します。この発見により、単なる着色料から高付加価値なサプリメント原料へと進化を遂げたのです。
JXTGはこの新ビジネスを軌道に乗せるため、神奈川県にある横浜中央技術研究所に新たな発酵設備を導入し、研究体制を大幅に強化しました。まずは健康意識の高い米国市場で、飲料やサプリメントの原料として販売を開始する計画です。将来的には日本国内での展開も視野に入れており、エネルギー企業が私たちの健康をサポートする日がすぐそこまで来ています。既存のインフラや技術を全く別の分野に応用する柔軟な発想こそ、今の日本企業に必要な姿勢だと言えるでしょう。
新興国の需要を狙い撃ち!出光が仕掛ける戦略的な樹脂生産
業界2位の出光興産も、負けじとダイナミックな動きを見せています。2019年末までに、台湾で「石油樹脂」の新工場を稼働させる予定です。この石油樹脂とは、石油を精製する際に出る余剰成分を加工して作られる素材で、今回は特に紙おむつ向けの接着剤原料として注目されています。無色透明で粘着力が非常に高いという特徴を持っており、高品質な衛生用品を作るためには欠かせない存在です。出光はこの分野で、世界的なシェア拡大を狙っています。
現在、中国やインド、インドネシアといった新興国では、人口増加と生活水準の向上に伴って紙おむつの需要が爆発的に伸びています。出光はすでに山口県の徳山事業所で生産を行っていますが、台湾の新工場が稼働すれば、グループ全体の生産能力は一気に3.5倍の年間3万5000トンにまで跳ね上がります。同社は以前から有機ELディスプレイの発光材料などでも高い技術力を証明しており、今回の投資もリスク分散と収益安定化を目指す戦略的な一手となるでしょう。
また、コスモエネルギーホールディングスも他社と協力し、2020年末の稼働を目指して千葉県に同様の設備を建設中です。経済産業省のデータによれば、国内のガソリン需要はこの10年で12%も減少しており、2017年度には5183万キロリットルまで落ち込みました。電気自動車の普及も相まって、燃料ビジネスの縮小は避けられない現実です。だからこそ、石油から生まれる付加価値の高い「機能材」に活路を見出すのは、極めて合理的で前向きな決断だと私は確信しています。
これら機能材が収益に占める割合は、最大手の出光であっても現時点では2割に満たない規模に留まっています。しかし、各社の中期経営計画では明確に「成長領域」として位置づけられており、投資のスピードは加速する一方です。燃料を燃やしてエネルギーにする時代から、石油の成分を緻密にコントロールして生活を豊かにする素材へと変える時代へ。私たちの生活を支える石油元売りのイメージは、数年後には劇的に変わっているのかもしれません。
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