「明日の客入りは何人か」という問いに対し、長年の勘や神頼みではなく、デジタルデータで答えを出す時代が到来しています。2019年09月18日、三重県伊勢市の老舗食堂「ゑびや」が、AI(人工知能)を活用して翌日の来店客数を98%の精度で的中させているという驚きのニュースが飛び込んできました。かつては手書きの伝票で管理していた古き良き食堂が、今やデータ経営の最前線を走っています。
この驚異的な予測を支えているのが「機械学習(マシンラーニング)」です。これは、コンピューターに大量のデータを与え、そこに潜むパターンやルールを自ら学習させる技術を指します。ゑびやでは、過去の売り上げだけでなく、近隣の宿泊数やSNSの口コミ、さらには天候など十数項目の要素をAIが分析しています。2019年08月には、約1万人の来客に対して誤差はわずか203人だったというから驚きです。
「勘」から「データ」へ!食品ロス削減と収益向上のサイクル
SNS上では「老舗がここまで進化するなんて」「無駄な廃棄が減るのは素晴らしい」と、伝統と最新技術の融合を称賛する声が相次いでいます。実際、予測に基づいて仕入れを最適化したことで、2012年07月期に1億円だった売り上げは、2019年同期には5倍近くにまで急成長しました。かつて月に200キログラムも捨てていたお米の廃棄量も7割削減され、環境負荷の低減と利益率の向上を同時に実現しています。
こうした「需要予測」の波は、飲食業界以外にも波及しています。例えばタクシー業界では、NTTドコモが展開する「AIタクシー」が注目を集めています。これは、携帯電話ネットワークから得られるリアルタイムの人口統計と気象データを組み合わせ、30分後に「どこで客待ちが発生するか」を予測する仕組みです。この技術により、ベテラン運転手の経験則に頼らずとも、新人が効率的に乗客を見つけられるようになっています。
ディスラプションがもたらす「低温経済」と人間の役割
さらに、無人コーヒーマシン「√C(ルートシー)」のように、客が到着する前にAIが需要を察知してコーヒーを淹れ始める実証実験も2019年08月に実施されました。こうした技術革新は、既存の産業構造を根底から覆す「ディスラプション(創造的破壊)」を引き起こしています。無駄を極限まで削ぎ落とすことで、これまで低賃金に喘いできたサービス業の生産性を劇的に改善する可能性を秘めています。
しかし、全ての需給が最適化された先には、景気の波が穏やかになりすぎる「低温経済」が訪れるとの指摘もあります。在庫の変動による景気循環、いわゆる「キチンの波」が消失するかもしれません。私は、データが未来を教えてくれるからこそ、人間は「なぜその事業を行うのか」という目的意識や、数値化できない顧客の感情に寄り添う、より高付加価値な判断に集中すべきだと考えます。
予測技術がどれほど進化しても、最終的にそのデータをどう使い、どのような価値を社会に提供するかを決めるのは私たち人間です。2019年という現在は、AIを単なるツールとしてではなく、共生するパートナーとして迎え入れる大きな転換点にあると言えるでしょう。
コメント