東電旧経営陣に無罪判決も「責任の清算」は遠く。賠償9兆円超、廃炉22兆円の重圧と信頼回復への険しき道

2019年9月19日、日本中が注目した福島第一原子力発電所事故を巡る刑事裁判で、東京地裁は東京電力の旧経営陣3名に対して無罪の判決を言い渡しました。巨大な津波の到来を具体的に予見し、事故を防ぐことは困難だったという判断です。しかし、司法が刑事的な責任を否定したとしても、未曾有の災厄を招いた当事者としての社会的・道義的責任が消えるわけではありません。判決を受けた東京電力ホールディングスは、訴訟内容への直接の言及を避けつつ、福島復興の原点に立ち、損害賠償や除染、廃炉作業に全力を尽くすとの決意を新たにしました。

原子力損害賠償法(原賠法)という法律をご存知でしょうか。これは原発事故が発生した際、事業者に過失の有無を問わず、無制限に損害賠償の責任を負わせるという強力なルールです。東電幹部が「刑事で無罪となっても、賠償は最後までやり抜かなければならない」と厳しい表情で語る背景には、この法律の存在があります。2019年9月13日時点で、東電が個人や法人に支払った賠償額はすでに約9兆824億円という天文学的な数字に達しており、避難を余儀なくされた多くの人々の生活再建に向けた支払いは、今も現在進行形で続いています。

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全国に広がる民事訴訟の波と膨らみ続ける廃炉コストの重圧

刑事裁判が決着を見せる一方で、全国各地では約30件、原告数1万人を超える民事の集団訴訟が展開されています。2017年3月の前橋地裁判決のように、「津波は予見可能であり事故は防げた」として東電や国に賠償を命じる司法判断も出ており、民事の世界では安全対策の不備を問う厳しい戦いが続いているのです。原発事故から時が経過しても、被害者たちの抱える苦しみや憤りは決して癒えておらず、今回の刑事判決に対してもSNS上では「納得できない」「責任の所在が曖昧だ」といった失望の声が多く寄せられました。

さらに、事故によって溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出す廃炉作業は、人類が経験したことのない未知の領域です。その費用は当初の想定だった2兆円から8兆円へと跳ね上がり、賠償費用などを含めた総額は実に22兆円という巨額に膨らんでいます。このうち16兆円を東電が負担する仕組みですが、現在の東電にそれほどの蓄えはありません。国からの融資に頼り、将来にわたって返済していくという苦しい台帳を抱えているのが実態です。債務の返済と復興を両立させるための道のりは、想像を絶するほど険しいものと言えるでしょう。

経営再建の鍵を握る原発再稼働と問われる「組織の体質」

東電が再建計画を完遂するには、年間4500億円の純利益を安定して稼ぐ必要があります。しかし、2019年3月期の利益は約2324億円と目標の半分程度に留まっており、経営の立て直しには新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働が不可欠な状況です。再稼働が実現すれば1基あたり年間1100億円の収益改善が見込めるものの、地元自治体の根強い反発により、2019年度中の稼働という当初の目論見は大きく崩れています。事故に対する不信感は依然として根深く、社会的な合意形成を得ることの難しさが、再建の大きな足かせとなっているのは間違いありません。

何より懸念されるのは、長年指摘されてきた官僚的で内向きな組織体質の改善が進んでいない点です。外部からトップを招聘して組織改革を進めてきたものの、2019年9月に発生した台風15号による大規模停電への対応では、現場と上層部の意思疎通の欠如から復旧見通しを誤るという失態を演じました。洋上風力発電などの再生可能エネルギー分野へ注力する姿勢を見せつつも、肝心の危機管理能力や透明性には依然として疑問符が付いています。事故の教訓を真に刻み込み、信頼される企業へと脱皮できるのか、その真価が今まさに問われているのです。

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