中東の経済地図を塗り替える巨大な地殻変動がいよいよ現実のものとなりました。2019年11月04日、サウジアラビアの国営石油会社である「サウジアラムコ」が、国内の証券取引所タダウルへの株式公開を正式に発表したのです。これは、サウジの事実上の支配者であるムハンマド皇太子が進める、脱石油を掲げた経済改革「サウジ・ビジョン2030」の命運を握る極めて重要な一歩と言えるでしょう。
今回の新規株式公開、いわゆるIPOとは、企業が自社の株式を証券取引所に上場させ、不特定多数の投資家から資金を調達することを指します。皇太子がこの計画を初めて口にした2016年から3年、ようやく悲願のスタートラインに立ちましたが、その道のりは決して平坦ではありません。市場では「いよいよ来たか!」という期待感と、「本当に成功するのか?」という懐疑的な視線が入り混じり、SNSでも世界中の投資家から大きな注目を集めています。
立ちはだかる「2兆ドル」という巨大な壁
ムハンマド皇太子はアラムコの企業価値を2兆ドル、日本円にして約216兆円という驚天動地の規模で試算しています。しかし、この強気な姿勢に対して専門家たちの見解は厳しいようです。世界最大の利益を誇るアラムコであっても、現在の冷え切った原油相場や地政学的な不安定さを考慮すると、投資家がそこまでの高値で買い支えるかは不透明でしょう。
特に配当利回りの観点から逆算すると、実情が見えてきます。アラムコは2020年の配当を750億ドルと公表していますが、競合する石油メジャーの配当水準に照らし合わせると、時価総額は1.36兆ドル程度に落ち着くのではないかと私は予測しています。皇太子の理想と市場のリアリズムの間には、依然として埋めがたい溝が存在しており、このギャップをどう埋めるかが上場の成否を分ける鍵となるはずです。
一方で、2018年には米アップルを遥かに凌ぐ1110億ドルの純利益を叩き出した実績は、紛れもない事実です。ネット上の反応を見ても、その圧倒的な収益力に驚嘆する声が絶えません。それでも価値が割り引かれる背景には、世界的な「脱炭素」への潮流があり、石油という資源そのものの将来性に投資家が警戒心を抱いている現実があるのでしょう。
中東の火種と改革への焦り
サウジアラビアを取り巻く環境は、かつてないほど緊張感に満ちています。宿敵イランとの対立は激化しており、石油施設へのドローン攻撃やタンカーの拿捕といった事件が相次ぎました。通常であれば供給不安から原油価格は高騰するものですが、需要の伸び悩みにより価格は低迷したままです。このような逆風の中で上場を強行する背景には、改革の停滞を何としても打破したいという皇太子の強い焦燥感が透けて見えます。
私個人の見解としては、今回の国内上場はあくまで「第一幕」に過ぎないと考えています。2020年以降に期待される海外市場への進出には、さらに厳しい情報開示や法的リスクの壁が待ち受けているからです。独裁的な体制下での不透明な意思決定プロセスを、果たしてグローバル市場が容認するのでしょうか。皇太子の手腕とサウジアラビアの覚悟が、今まさに試されようとしています。
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