中東の地域大国であるイランを巡り、米国との緊迫した対立が激化しています。かつては日本の大手企業が大規模な石油化学コンビナートを建設するなど、歴史的に深い経済的結びつきを誇ってきた地域ですが、現在の不安定な情勢は現地ビジネスに深刻な影を落としているのです。資源大国としての魅力は大きいものの、地政学的リスクの高まりを前に、多くの企業が苦渋の決断を迫られています。
ネット上やSNSでは、現地の緊迫感に対して多くの心配の声が上がっています。「駐在員の方々の安全が何よりも最優先されてほしい」「中東の安定は日本のエネルギー政策にも直結する死活問題だ」といった、ビジネスパーソンや市民からの切実な投稿が相次いでいる状況です。中東情勢の緊迫化は、決して遠い国の出来事ではなく、私たちの生活や経済に直結する身近な危機として捉えられているのでしょう。
緊迫する現場と大手商社が迫られる決断
緊迫の度合いが増す中、総合商社の豊田通商は2020年1月8日時点で、イラン駐在員の一時避難に向けた具体的な検討に入ったことを明らかにしました。他の商社各社も、かつて原油事業などで築いた足がかりを守りつつも、出国手続きの準備や屋内退避の必要性を慎重に見極めるため、全力で情報収集に奔走しています。人命第一の観点から、各社は一刻を争う経営判断を求められているのです。
外務省の統計によると、2018年10月時点のデータではイラン国内に30の日系企業拠点が存在し、714人の在留邦人が生活を送っています。この数字からも、現地にはいまだ多くの日本人が留まっていることが分かりますね。その中で、2002年から現地で紙巻きたばこの販売を開始し、現地の市場で約6割という圧倒的なシェアを誇る日本たばこ産業は、現時点での従業員の退避は予定せず、状況を注視する構えです。
米国の経済制裁がもたらしたビジネスへの打撃
ここで注目すべきは、トランプ米政権が「イラン核合意」から離脱した影響です。核合意とは、イランが核開発を制限する見返りに、欧米が経済制裁を解除する国際的な約束を指します。しかし、米国がこの合意から一方的に離脱したことで、2018年8月に経済制裁が一部復活してしまいました。経済制裁とは、特定の国との貿易や金融取引を厳しく制限し、経済的な打撃を与える外交手段のことで、これが日系企業を直撃したのです。
この制裁復活の波をまともに受けたのが、繊維や化学分野を牽引する商社の蝶理です。同社は自動車用塗料の供給などを行っていましたが、2019年3月までに駐在員を全員帰国させ、完全撤退を余儀なくされました。過去にも2012年の制裁で一時撤退し、2016年の制裁解除で悲願の営業再開を果たしたばかりだっただけに、今回の再撤退は企業にとって非常に大きな痛手となったに違いありません。
同様の悲劇は他の名門企業にも広がっています。2016年に現地企業への出資を通じて自動車用塗料の原料提供に乗り出した関西ペイントも、再びの撤退へ追い込まれました。また、2016年に約3000台の自動車を日本から輸出して好調だった三菱自動車も、2019年7月以降はイラン税関を商品が通過できなくなるという深刻なトラブルに見舞われ、実質的なビジネスの停止状態が続いています。
日本経済が直面する試練と今後の展望
かつて2000年代半ばには、日揮や東洋エンジニアリング、千代田化工建設といった日本の誇るプラント大手が、肥料工場や製油所の建設を次々と受注していました。さらに遡れば、1970年代から1980年代にかけては三井物産をはじめとする三井グループが、莫大な資金を投じて巨大な石油化学事業を展開していた歴史もあります。これら先人が築いた苦労の足跡が、政治の荒波によって遮られてしまうのは誠に残念です。
筆者の見解としては、日本企業は単に撤退を嘆くだけでなく、地政学的リスクを分散する「マルチポーラ(多極化)戦略」をこれまで以上に徹底すべきだと考えます。エネルギー資源を中東だけに依存する危うさが改めて浮き彫りになった今、サプライチェーンの再構築は急務です。企業の安全と国益を守るため、日本政府と民間企業が一体となった、より強靭で柔軟な外交・経済戦略の構築が求められています。
コメント