山形県長井市にある曹洞宗洞松寺の住職でありながら、世界を股に掛けるボードゲームジャーナリストとしても活躍する小野卓也氏をご存じでしょうか。インターネット上では「お寺でボードゲームなんて最高すぎる」「住職の解説でゲームをやってみたい」と、その異色の肩書が大きな話題を呼んでいます。
デジタルゲームが主流の現代において、卓上でダイスやコマを動かすアナログゲームは「ボードゲーム」として親しまれています。日本では子どもの遊びと思われがちですが、実は海外を中心に大人が本気で頭脳戦を楽しめる奥深い作品が数多く存在しているのです。
世界のトレンドを生み出すドイツの秘密
小野氏がこの世界に魅了されたのは大学時代に出会ったドイツ発の「カタン」がきっかけでした。資源を集めて島を開拓していく戦略性と運の要素が絶妙に絡み合うゲーム性に心を奪われ、週に2回は徹夜で遊ぶほど没頭したそうです。
その後、2002年には世界最大のボードゲーム見本市であるドイツの「シュピール」への取材を敢行しました。現在では毎年1500種類もの新作が披露されるこの一大イベントの中心地、ドイツでなぜこれほどまでにアナログゲームが発展したのでしょうか。
その背景には、日照時間が短く室内での娯楽が好まれたことや、夕方には帰宅して家族と過ごすライフスタイルが定着していたことが挙げられます。さらに1970年代から優れたゲームを表彰する文化が育っていたことも、大人のファンを惹きつける要因となりました。
ゲームのなかに息づく「禅」の精神
歴史を振り返ると、古くから僧侶は囲碁の担い手であり、江戸時代には仏教の世界観を反映した「浄土すごろく」というゲームも存在していました。そう考えると、お寺とボードゲームの組み合わせは必然の出会いだったのかもしれません。
小野氏は、互いに言葉を交わさず空気感を読み合いながら数字カードを順番に出していくゲーム「ザ・マインド」を例に挙げ、ゲームと仏教の共通点を説きます。この意思疎通の感覚は、禅の教えである「卒啄同時(そったくどうじ)」に通じるものがあります。
「卒啄同時」とは、卵の中のヒナが内側から殻を突つく音と、親鳥が外から殻をついばむタイミングが合致して初めて新しい命が生まれるという意味です。まさに、プレイヤーたちの息がぴったりと合った瞬間にしか得られない一体感こそが、ボードゲームの真髄と言えます。
人と人とを繋ぐアナログゲームの未来
近年では日本発の作品も世界から注目を集めており、魚の市場価値を競う「TSUKIJI」や、美しい庭園を造る「Miyabi」など、日本文化をテーマにしたゲームが世界の見本市を賑わせています。日本のクリエイターたちの感性が、世界中で高く評価されているのです。
小野氏が営むお寺では、夜通しゲームを楽しんだ翌朝にお経を唱えるユニークな会が定期的に開かれています。500点を超えるコレクションの中から選ばれたゲームを囲み、参加者たちは笑顔でコミュニケーションを深めています。
対面だからこそ味わえる心理戦や、言葉を超えた繋がりは、現代人が忘れかけている温かさを思い出させてくれます。相手の意外な一面や魅力を引き出してくれるボードゲームの輪が、これからも多くの人々を魅了していくことは間違いないでしょう。
コメント