日本の夏の風物詩、土用の丑の日を目前に控えた2019年07月22日、私たちの食卓を揺るがす大きなニュースが飛び込んできました。水産研究・教育機構が、ウナギの卵を人工的にふ化させ、出荷サイズにまで育てる「完全養殖」の実験に成功したのです。これまで天然資源に頼り切りだったウナギ供給に、一筋の光が差し込んでいます。
水産庁が2019年06月に開催した記者会見では、驚きの試食会が行われました。並んだのは、研究室で生まれた「人工ウナギ」と、従来の「天然稚魚から育ったウナギ」のかば焼きです。見た目は一切変わらず、口に運べば人工飼育の方が身が柔らかく、脂がのっていると感じるほどの完成度でした。SNSでは「ついにここまで来たか」「未来の味がする」と期待の声が溢れています。
「レプトセファルス」という難関を突破した革新技術
ウナギの完全養殖を阻んできた最大の壁は、謎に包まれたその生態です。卵から生まれたばかりの幼生は「レプトセファルス」と呼ばれ、平べったく透き通った姿をしています。自然界で何を食べているのかが長年不明で、水質変化にも極めて敏感なため、飼育は困難を極めました。しかし、約30年に及ぶ執念の研究が、ついにこの難関を突破したのです。
研究チームが特に苦労したのは、幼生の「エサ」の開発でした。以前は希少なアブラツノザメの卵を使用していましたが、持続可能性を考慮し、現在は鶏卵などをベースにした独自のエサが確立されています。この技術革新により、年間数千匹という単位での飼育が可能となり、鹿児島県大崎町の養殖大手「鹿児島鰻」の協力によって、通常の養殖環境でも遜色なく成長することが証明されました。
コストの壁と「エリートウナギ」誕生への期待
次なるステージは、個体差をなくす「育種」です。現在、稚魚であるシラスウナギに成長するまでの期間は150日から300日と大きなばらつきがあります。そこで、早く育つ個体同士を掛け合わせることで、短期間で成長する新品種の開発が進められています。これが実現すれば、効率的な生産が可能となり、まさに「エリートウナギ」が誕生することになるでしょう。
ただし、商業化への最大の課題は依然として「コスト」にあります。現在、人工飼育によるシラスウナギ1匹あたりの価格は5000円から6000円と、天然稚魚の約10倍もするのが現状です。ネット上では「安く食べられるのはまだ先か」と冷静な意見も見られますが、大量生産に向けた飼育法の改良は着実に進んでおり、価格競争力の向上が急務となっています。
絶滅の危機から救う!持続可能な資源管理への第一歩
ニホンウナギは2014年に絶滅危惧種に指定されており、天然資源の枯渇が深刻視されています。シラスウナギの価格は漁獲高によって乱高下し、2017年冬から2018年春にかけては前シーズンの約2.7倍という異常事態も発生しました。完全養殖の普及は、こうした不安定な市場と、危機に瀕した生態系を守るための切り札として期待されています。
編集者の視点として、この技術は単なる「安価な供給」のためだけではなく、日本の伝統的な食文化を守るための「聖域」であるべきだと考えます。人工稚魚の流通を優先する制度作りなど、国を挙げたバックアップが不可欠でしょう。私たちの子供や孫の代まで、美味しいウナギを繋いでいくための挑戦は、今まさに大きな転換点を迎えているのです。
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