エネルギー業界に大きな衝撃が走りました。東京電力ホールディングスの子会社である東京電力エナジーパートナー(以下、東電EP)が、2019年08月22日、九州エリアの家庭向け電力小売事業に月内から進出することを正式に表明したのです。九州といえば、全国でも指折りの電気料金の安さを誇る地域として知られています。そこへ最大手の東電EPが殴り込みをかける形となり、シェアを奪い合う「顧客争奪戦」は、これまでにない激しい局面を迎えることになるでしょう。
現在、九州のエネルギー市場はまさに群雄割拠の様相を呈しています。地元の王者である九州電力はもちろん、都市ガス大手の西部ガスといった「新電力」たちが激しく火花を散らしている状況です。新電力とは、2016年の電力自由化以降に参入した、従来の大手電力会社以外の事業者を指します。これまでは地域ごとの独占状態でしたが、今回の東電EPの参入により、資本力の差が勝敗を分ける「体力勝負」の戦いが本格化するのは間違いありません。
九州電力の価格設定は非常に戦略的です。2019年09月の標準的な家庭における料金は6440円となっており、これは東電EPが首都圏で展開する料金プランと比較して1割近くも安い水準です。新電力への顧客流出を食い止めるため、九州電力は2019年04月に値下げを断行しました。その結果、北陸電力に次ぐ全国2番目の安さを実現しており、西部ガスなどの他社もこれに追随せざるを得ないほど、価格競争は過熱の一途を辿っています。
そんな「安値の聖地」に挑む東電EPは、九州電力よりもさらに3%安い料金設定を打ち出しました。これは単なるシェア拡大だけが目的ではありません。引っ越しを機に契約を切り替えてしまう「首都圏からの転出者」を繋ぎ止めるという、大手ならではの守りの戦略も含まれているようです。SNS上では「ついに東電が来るのか」「もっと安くなるなら歓迎」といった期待の声がある一方で、「既存の小さな新電力は太刀打ちできるのか」と懸念する意見も散見されます。
原発停止の影響と新電力の苦境
今後の動向を左右するのが、九州電力の原子力発電所を巡る状況です。テロ対策施設である「特定重大事故等対処施設(特重)」の建設遅れにより、川内原発1号機が2020年03月18日から運転を停止する見通しとなっています。さらに2号機も設置期限に間に合わない可能性が高まっており、原発が停止すれば、火力発電などの代替コストが膨らむため、電気料金の上昇圧力となるのは避けられないでしょう。九電が苦境に立たされる中での東電参入は、絶妙なタイミングと言えます。
私自身の見解としては、この巨大資本同士の衝突は、消費者にとって短期的には大きなメリットをもたらすと考えています。しかし、東電EPが提示した「九電より3%安い」という価格設定は、経営規模の小さい新電力にとっては追随が極めて困難なラインです。選択肢が増えるのは喜ばしいことですが、あまりの価格競争の激化により、地域の多様なサービスを支えてきた中小の事業者が淘汰されてしまわないか、市場の健全な発展という観点から注視が必要でしょう。
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