千葉県市原市の臨海部に位置する昭和電工エレクトロニクスHD工場は、私たちのデジタルライフを支える「記憶」の聖地です。2019年08月28日現在、この拠点はハードディスクドライブ(HDD)の命とも言える「磁気ディスク」の世界最大手、昭和電工が誇る次世代技術の最前線として注目を集めています。パソコン市場の枠を超え、爆発的に普及するデータセンター向けの需要に応えるため、同工場ではかつてない高機能部品の供給体制が着々と整えられているのです。
この市原工場は、昭和電工が国内外に展開する全7拠点を統括する「マザー工場」という極めて重要な立ち位置にあります。全従業員308人のうち、約3割が研究開発センターに所属しているという事実からも、単なる生産現場ではなく知の集積地であることが伺えるでしょう。ここで磨かれた技術や品質保証の基準が、世界中の拠点へと伝播していく仕組みです。SNS上でも「日本の製造業の底力を感じる」「地元の市原に世界トップシェアの工場があるのは誇らしい」といった称賛の声が上がっています。
そもそも磁気ディスクとは、1ミリメートルほどの薄い円盤に「磁性膜」という特殊な膜をコーティングした記録媒体のことです。ここに磁気ヘッドを近づけ、粒子の向きを反転させることで、膨大なデジタルデータを読み書きします。カセットテープの進化版と考えるとイメージしやすいかもしれません。昭和電工グループ全体で年間2億4千万枚という驚異的な生産能力を誇りますが、その中核を担うのがこの市原工場なのです。ITインフラを支える裏方の存在ですが、彼らがいなければネット動画もSNSも成立しません。
現在、あらゆるデバイスがネットに繋がるIoTやビッグデータの活用が急速に進んでおり、情報の保管先であるデータセンターの重要性は日増しに高まっています。市原工場における生産比率も、2018年にはパソコン向けの2.5インチ型が6割を占めていましたが、2020年にはデータセンター向けの3.5インチ型と肩を並べる見通しです。このシフトは、個人消費からインフラ需要へと市場の主役が交代している現在のITトレンドを如実に反映していると言えるでしょう。
限界を突破する新技術「MAMR」が切り拓く大容量化の未来
昭和電工は、記録密度の限界という大きな壁を「MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)」という革新的なアプローチで打ち破りました。これはマイクロ波を照射することで磁性層を書き換えやすくする高度な技術です。2019年02月には、この技術を用いた次世代メディアの開発に成功したと発表されました。1枚あたりの記録容量は、前世代の1.5〜1.8テラバイトから、一気に2テラバイトへと引き上げられています。技術の進歩が、物理的な制約を凌駕した瞬間です。
この驚異的な容量アップを支えているのが、磁性層を10層以上も積み重ねる積層技術です。従来は面積あたりの密度を高める手法が主流でしたが、もはや「横」への拡大は限界に達していました。そこで開発されたのが、磁性層と非磁性層を交互に重ねる、いわば「ミルフィーユ」のような構造です。わずか1ナノメートル(10億分の1メートル)という分子レベルの層を積み上げる緻密な作業は、まさに日本の職人芸と先端科学が融合した結果と言えるでしょう。
世界のデータ生成量は、2010年の1ゼタバイトから、2025年には175ゼタバイトにまで膨れ上がると予測されています。ゼタとはテラの10億倍という、想像を絶する単位です。こうした情報の洪水の中で、データを確実に保存する場所を確保し続けることは、現代文明を維持する上での至上命題となります。昭和電工千葉事業所の松橋敬所長が語る「世界中の需要に対応し続ける」という決意は、一企業の戦略を超えた、デジタル社会への使命感に満ち溢れています。
編集者の視点から見れば、このように地道かつ高度な技術革新こそが、日本の製造業がグローバル競争で生き残る唯一の道だと確信します。華やかなサービスが注目されがちですが、その裏側で「物理的な記録の限界」に挑むエンジニアたちの情熱には心を打たれます。私たちは日々、無意識にスマートフォンで動画を楽しんでいますが、その裏には市原で作られた1ミリのディスクが回っているかもしれない――そんな想像をするだけで、デジタル空間が少し身近に感じられませんか。
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