瀬戸内海を臨む香川県三豊市に、世界の半導体産業を支える重要な拠点が構えられています。東洋炭素の主力工場である「詫間事業所」では、現代のハイテク製品に欠かせない「等方性黒鉛(とうほうせいこくえん)」の生産が、2019年08月20日現在も熱気を帯びて進められているのです。
等方性黒鉛とは、どの方向から力を加えても均一な強度と性質を保つ画期的な素材を指します。東洋炭素はこの特殊な黒鉛の量産に世界で初めて成功したパイオニアであり、その技術力は折り紙付きでしょう。一般的な黒鉛に比べて熱や電気の伝導率が極めて高く、薬品にも強いという特性を持っています。
SNS上では「地味な素材に見えて、実はスマホやPCの心臓部を支える『縁の下の力持ち』すぎる」といった驚きの声が広がっています。実際、半導体の土台となるシリコンウエハーを製造する工程では、同社の製品が世界シェアの約4割を占めており、まさにインフラを支える存在と言えるのではないでしょうか。
緻密な職人技と最新テクノロジーの融合
工場の内部に一歩足を踏み入れると、コークスを粉砕する力強い音と、素材特有の油の香りが漂っています。製造工程は非常に長く、原料となる石油・石炭由来のコークスを10マイクロメートル(1ミリの100分の1)という小麦粉のような細かさまで粉砕し、特殊な接着剤と混ぜ合わせることから始まります。
これを成型した後に約1000度で焼き上げ、さらに電気を通して3000度という超高温で加熱することで、ようやく最高品質の黒鉛へと生まれ変わるのです。驚くべきことに、一つの製品が完成するまでには6カ月から8カ月もの長い月日を要します。まさに、気の遠くなるような時間をかけて磨き上げられる逸品です。
この過酷な製造現場において、東洋炭素は2010年ごろから搬送工程の自動化に注力してきました。巨大な焼成炉の中へ、素材が入った容器をわずか1〜2センチの誤差もなく敷き詰める自動クレーンの動きは圧巻でしょう。わずかなズレが熱の伝わり方にムラを生むため、この精密な自動化こそが品質安定の鍵を握ります。
市況変動に負けない「賢い」生産体制への挑戦
半導体業界は市場の浮き沈みが激しいことで知られていますが、同社は安易に設備を新設して規模を追う道を選びません。不況時に固定費となる減価償却費(設備投資額を耐用年数に応じて分割計上する費用)が経営を圧迫することを防ぐため、既存設備の生産性を極限まで高める戦略を採っています。
2021年までの3年間で、同社は省エネルギー分野に30億円もの巨額投資を計画しています。断熱材を厚くして熱効率を改善することで、エネルギー使用量を2〜3%削減する見込みです。こうした細かな積み重ねが、世界トップシェアを維持し続けるためのコスト競争力を生み出しているのだと感じます。
今後は人工知能(AI)の導入も視野に入れており、ベテラン作業員がモニター越しに判断していた「練り」のタイミングなどもデータ化されていくでしょう。伝統的な素材づくりと最先端のITが融合する詫間事業所の姿は、日本の製造業が目指すべき一つの完成形を提示しているように思えてなりません。
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