21世紀の建築界において、これほどまでに強烈な個性を放ち、世界中の風景を塗り替えた人物は他にいないでしょう。建築家ザハ・ハディド氏の手によって、2019年9月に中国の建国70周年を祝してオープンした北京の巨大な空港も、その圧倒的なスケールで話題をさらいました。一方で、日本においては新国立競技場のデザイン案が着工直前に白紙撤回されるという苦い過去がありましたが、世界に目を向ければ彼女の情熱は今も各地で息づいています。
SNS上では、彼女の建築を訪れた人々から「まるでSF映画の世界に迷い込んだようだ」という驚きの声や、「静止しているはずの建物から動きを感じる」といった感動の投稿が絶えません。今回ご紹介するローマ郊外に位置する「イタリア国立21世紀美術館(MAXXI)」は、2010年に誕生して以来、まさに都市のランドマークとして君臨し続けています。古都ローマの街並みと、彼女の描く急進的なデザインが衝突する様は、見る者に深い衝撃を与えずにはいられません。
重力を感じさせない流動的な空間デザインの魔法
この美術館の最大の特徴は、湾曲したチューブ状の構造体が立体的に絡み合い、空中に向かって勢いよく飛び出すかのような外観にあります。内部に一歩足を踏み入れれば、そこには彼女が得意とする「流動的な空間」がどこまでも広がっているのです。宙に浮いているかのように設置された漆黒の階段や、ダイナミックな吹き抜け構造は、訪れる者の平衡感覚を心地よく揺さぶるでしょう。現代のコンピュータ技術を駆使して設計された複雑な曲面は、まさに芸術そのものです。
ここで少し専門的な解説を加えますと、彼女のスタイルは「デコンストラクティヴィズム(脱構築主義)」の流れを汲んでいます。これは、従来の建築が重んじてきた直線や直角といった安定した秩序をあえて崩し、断片化や非線形な形状を用いることで、既成概念を打破しようとする革新的な手法を指します。1980年代にラディカル、つまり「過激で急進的」なデザインでデビューした彼女の哲学は、この美術館において一つの完成形を見せたと言っても過言ではありません。
私は、この建築が単なる「展示のための器」に留まっていない点に強く惹かれます。この美術館には建築部門が設置されており、建築そのものの展示や資料収集に積極的に取り組んでいるのです。自国の文化資産として建築を捉えるこの姿勢は、デザインの価値を軽視しがちな現在の日本が、最も見習うべき点ではないでしょうか。素晴らしい才能を排除するのではなく、受け入れ、育む土壌があってこそ、後世に誇れる文化が醸成されるのだと痛感いたします。
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