長年、日本の肌着文化を支えてきた老舗、富士紡ホールディングスがいま、大きな時代の転換点に立っています。2019年11月08日、中野光雄会長兼社長は、主力であった繊維事業の売上高が過去14年間で約3分の1にまで落ち込んだことを明かしました。この背景には、かつての主要販路であった百貨店での衣料品販売が、消費スタイルの変化によって著しく苦戦しているという厳しい現実があるのでしょう。
しかし、同社はこの逆境をただ静観しているわけではありません。世界的に有名なアンダーウェアブランド「B.V.D.」などを擁する強みを活かし、成長著しい電子商取引、いわゆる「EC」へのシフトを加速させています。インターネットを通じて直接消費者に商品を届けるこの仕組みを強化することで、2021年03月31日までにEC売上高を現状の5割増となる10億円規模へ引き上げるという、極めて具体的な目標を掲げました。
SNS上では「B.V.D.の肌着は品質が良いから、ネットで手軽に買えるようになるのは嬉しい」といった好意的な声が上がる一方で、「百貨店から姿を消していくのは寂しい」と時代の移り変わりを惜しむ反応も見受けられます。こうしたファンの期待に応えるためにも、デジタル空間でのブランド体験をいかに構築するかが、今後の命運を握る重要な鍵となるはずです。
5G時代の到来を見据えた「非繊維事業」への大胆なシフト
富士紡ホールディングスの変革は、単なる販売ルートの変更に留まりません。同社が次なる成長の柱として注力しているのが、次世代通信規格「5G」に関連するハイテク分野です。5Gとは、現行の4Gを遥かに凌ぐ超高速・大容量・低遅延の通信を実現する技術ですが、その基盤となる半導体の製造には、極めて高い精度を誇る「研磨材」が欠かせません。
この研磨材とは、半導体ウェハーの表面を鏡のように平滑に磨き上げるための材料であり、微細化が進む最先端デバイスの製造において不可欠な役割を担っています。繊維事業で培った緻密な技術力を、この高付加価値な工業製品へと転換させる戦略は、まさに「伝統から革新へ」という言葉が相応しい大胆な経営判断だと言えるのではないでしょうか。
私個人の見解としては、一つの事業に固執せず、時代のニーズを先読みして自社のコア技術を再定義する中野社長の姿勢を高く評価します。アパレル業界が苦境に立たされる中、5Gという巨大なインフラ投資の波に乗ることは、企業存続のための極めて賢明な選択です。老舗企業がデジタルとハイテクの両輪でどのように羽ばたくのか、その手腕から目が離せません。
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